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上京した子どもたちへの「カレーの仕送り」が話題になり大ヒット。経緯を社長本人に聞いてみた!

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神戸エリアにある60年以上続く歴史あるゴルフ場がある。『有馬カンツリー倶楽部』というところだが、ここのレストランで出されるカレーが美味しいと、ゴルフをやらない人までも巻き込み食通の間で話題になっている。

神戸エリアにある『有馬カンツリー倶楽部』というゴルフ場が、上京した子どもたちに送ったカレーが後にヒット。どういうことか聞いてみた

このカレーが広まった経緯は、『有馬カンツリー倶楽部』の代表を務める谷光高さんのプライベートにある。

『有馬カンツリー倶楽部』全景

谷さんはあるとき、上京した自身の子どもたちに「仕送り代わりにカレーを送る」アイデアを思いつき、さらに様々な経緯を経て「思い切ってレトルトでの商品化する」と思いついた。

結果、その「仕送りカレー」がレトルトで完成すると、そのあまりの美味しさに「親子の話」を飛び越えて大ヒット。新聞やWEBメディアなどでも取り上げられる事態となり、一時は在庫切れを起こすほどになったという。

なんとも稀有なエピソードではあるが、今回はその実際を当事者の谷さん本人から話を聞いてみることにした。

『有馬カンツリー倶楽部』の谷光高社長

帰郷する際に痩せていく子どもたちを心配し「カレーの仕送り」を思い立つ

谷さんの3人の子どもたちは息子が1人、娘が2人。いずれも神戸から東京・神奈川へと一時上京していたが、たまに神戸に帰ってくると、満足にご飯を食べていないのか痩せ細っていたという。若い世代では「ご飯代を節約してでも、遊びや学びにお金を使いたい」と思うことはよくあるが、しかし親にとってみれば、放っておくこともできない。かと言って、必要以上の仕送りをおくるのも教育上良いとは言えない。

そこで思いついたのが、3人の子どもたちが小さい頃から「美味しい」と好んで食べていた『有馬カンツリー倶楽部』レストランでの「カレーの仕送り」だった。谷さんはこう話す。

「たまに帰省した際に、冷蔵の『カレー』を渡して、東京・神奈川で食べさせていたのですが、しかし賞味期限があります。せめて冷凍してクール便で送ってあげることができれば良いなと考え、うちのレストランの料理長に話をしたのですが、『冷凍だと味が落ちる上に、そんなに長い賞味期限にもならない』という返答がありました。

困ったな……と思ったところで思いついたのが『カレーのレトルト化』です。いっそカレーをレトルト商品化させれば、それ子どもたちに送ってやることができる。最初はそんな発想がスタートでした」(谷さん)

社長の思いと、60年守り抜かれたカレーに敬意を持つ人たちの支援が集まった

レトルト化にかかる費用は、クラウドファンディングで捻出することにした。そこには谷さんの思い、そして『有馬カンツリー倶楽部』レストランで60年以上守り抜かれたカレーのストーリーについても偽りなく記載し、多くの支援をつのることにした。

「『有馬カンツリー倶楽部』は今年で開場してから63年になります。開場当初のレストランの料理長は、神戸にある老舗ホテルで修行した人で、戦後はGHQにレストランを提供し、米兵に洋食を提供していました。

この初代料理長が考案したカレーのレシピは、現在の6代目の料理長まで守り抜かれているんです。

古くから『有馬カンツリー倶楽部』に来てくださり、食事してくださる方に『味が変わったな』と言われてはいけませんので、神経を尖らせながら守り抜いたレシピを使ってのカレーで、本当に美味しいものですが、こういった話もクラウドファンディングで紹介しました。

すると、『仕送り』の話、『カレー』のエピソード双方に共感してくださる方が多く現れ、結果想定していた金額を大きく上回る1000万円以上の支援が集まりました」(谷さん)

カレー粉から作るという手間を経て唯一無二の味が完成

尋常じゃない手間をかけて作られる『有馬カンツリー倶楽部』のカレー

当初は谷さんの、子どもたちを思う気持ちから立ち上がった「仕送りカレー」だったが、結果的にその話を飛び越えて注目を浴びることになった。さらにレトルトカレー発売後は、そのあまりの美味しさに衝撃を受ける人が続出。結果的に、新聞やWEBメディアからも取材が殺到する事態にもなったという。

「そのカレーは、まず玉ねぎなどを炒めた後、カレーパウダーと混ぜて4〜5日かけてカレー粉を作るんです。それを一定期間乾燥させた後、これとは別に出汁を取るなどし、その後、カレー粉と合わせてカレールーとして完成させます。

カレー粉から作るレストランはそうないと思いますが、これだけの手間をかけることで美味しく仕上がるんですね」(谷さん)

実際にその味を『有馬カンツリー倶楽部』レストランで食べてみた。欧風のビーフカレーなのだが、コク深いのに煮詰まり感はなく、どことなくフレッシュな印象。これまでに食べたことがないほどの味わいだった。具材のゴロゴロ感も嬉しく、この味を知ったら忘れられないとも思った。

スプーンですくうと、カレールーのバランスが細部まで安定していることがわかる

「仕送りカレー」の続く第二のレトルト「ハヤシ」

果たして、「仕送りカレー」がおおいにヒットしたわけだが、今度は同じくレストランで評判だというハヤシをレトルト化し、販売することにしたという。

「仕送りカレー」に続き、『有馬カンツリー倶楽部』レストランで人気の「ハヤシ」もレトルト化することになった

「ゴルフをしたことがない方だとわからないと思いますが、ゴルフ場のレストランはほとんどメニューにカレーがあり、そして一番人気です。さらにハヤシがあるところでは、カレー同様の人気メニューになっています。

特に『有馬カンツリー倶楽部』のハヤシは一般の洋食店などで出されるものとはまた違うもので、これがまたとても美味しいです。今回レトルト化にあたっても、9回の試作を行い、1年4ヶ月ほどの時間をかけて徹底的に再現しました。『これ以上入れられません』というほどの具も入れ込みましたので、カレーと合わせてぜひご賞味いただければ嬉しいですね」(谷さん)

ゴルフファン以外にも名を知ってもらったことが嬉しい

「仕送りカレー」をめぐる支援、ヒットに対して「本当に嬉しいことです」と谷さん

最後に、改めてここまでの経緯を谷さんに振り返ってもらった。

「本当にありがたいことです。当初は私個人の子どもへの思いから始まった『仕送りカレー』が、多くの方々の元で商品化に至り、そして、食べて下さった方からも『美味しかった』『また食べたい』と言っていただき、中にはリピートして買ってくださる方もいらっしゃいます。本当に感謝しかありません。

『有馬カンツリー倶楽部』のカレーには自信を持っていましたが、これまではゴルフ場でしか食べられなかった味を『仕送り』だけでなく全国にお届けできることとなり、結果的にゴルフファン以外の方にも当倶楽部の名を知っていただくことにもなりました。ご興味くださった方は当倶楽部の『カレー』『ハヤシ』をぜひ一度食べてみてください。この味には絶対的な自信があります」(谷さん)

谷さんのお子さんにかけた思いもまた、さらに飛躍し全国の顧客に対する思いへと変わっていったようにも思う。そんな谷さんと『有馬カンツリー倶楽部』のアツい気持ちとスパイスがこもった「カレー」と「ハヤシ」、さらに多くの人に食べてみてほしいと思った。

<取材・文/松田義人>

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有馬カンツリー倶楽部
http://www.arimacc.jp/
 

音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある

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