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“1家に1個”接着剤メーカー「高シェアなのに上場廃止」になる厳しい現実

ビジネス

 セメダインが2022年7月28日付で上場廃止となりました。1968年に東京証券取引所市場第二部(現:スタンダード市場)に上場し、2016年にカネカがTOBで子会社化。2022年8月にカネカの完全子会社となって、上場の長い歴史に終止符が打たれました。

セメダイン

画像は公式サイトより

 セメダインは一般的な知名度が高く、国内の家庭用接着剤では高シェアを獲得しています。なぜ、買収されて上場廃止になったのでしょうか?

子会社化した後も売上高は横ばい…

 カネカはセメダインを完全子会社化する目的として、意思決定のスピードを上げることを挙げています。カネカは完全子会社化する前の時点でセメダイン株54.76%を保有する大株主で、中国・北米での建築・自動車分野での市場開拓を共同で行っていました。

 しかし、カネカが子会社化した後も、セメダインの売上高は横ばいが続いています。セメダインの競合で、土木建築用接着剤などの製造・販売を行うショーボンドホールディングス株式会社と比較をすると伸び悩んでいる様子がよくわかります。

 ちなみにショーボンドホールディングスは道路や鉄道など社会インフラの補修へと事業の幅を広げ、成長力をつけました。

不安要素を早めに摘んだ?

セメダイン

売上高比較※決算短信より(セメダインは3月期、ショーボンドHDは6月期決算。2022年6月期のショーボンドHDの売上高は予想)

 カネカは過半数の株式を取得し、海外市場の開拓を狙ったものの、期待していたほどの成果が得られなかったというのが本音でしょう。

 セメダインの代表取締役社長や取締役営業本部長、取締役管理部長など主要な役員は、すでにカネカの出身者で占められています。カネカ主導の経営体制は確立されており、今後はある程度利益を犠牲にしても海外拠点への投資を加速するなど、会社の戦略そのものが大きく変わる可能性があります

 また、親子上場は親会社が子会社を犠牲にして利益を追求し、少数株主に不利益が生じるという利益相反の問題を孕んでいます。カネカのような化学メーカーは環境汚染の問題と表裏一体であり、ガバナンスや社会的役割を重視するESGへの取り組みが求められます。

 カネカの完全子会社化は、将来的な不安要素ともなりかねない芽を早めに摘んだ、という側面もあったと考えられます。

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