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地元の友人をダマして、29歳男性が乗り切った「ブラック企業勤務」の結末

コラム

遊びに来たいという友人を拒み続けたら…

羨望のまなざし

 自分の“ツレ”が都会で活躍していることが誇らしく思えたのか、友人たちは総じて好意的に受け取ってくれたようです。しかし、そんな幸福な時間もつかの間、思いもよらぬ展開が佐野さんを襲います。

「土曜日に家でくつろいでいたら、友人たちから急に連絡があったんです。『車で東京に向かっているから、家に行っていいか? タワマンに住んでるんでしょ?』と……。彼らの話には否定も肯定もしないスタンスでいたつもりが、どうやらいつの間に都会生活を謳歌する成功者みたいな扱いになっていたんです

 さすがに『そんなところに住んでない』と取り繕いましたが、信じてもらえなくて……。このまま来られるのはまずいと思い、『今日は用があるから』と言って断りました」

 自らの置かれた状況を正直に伝えておかなかったことを後悔した佐野さんでしたが、事態はずるずると悪い方向に……。

「以降、何度も、何度も『家に言っていいか』と打診されたんですが、そのたびに理由をつけて断っていました。そうしたら、だんだんとLINEが来ることも減って、こちらから連絡しても既読スルーされるようになりました。1番の親友にも『お前、冷たくなったよな』と言われ、彼らの気持ちが離れて言っていることを痛感するようになりました」

「羨望のまなざし」が癒しになっていた

 日々の業務に追われていた佐野さんにとっては、心のよりどころとなっていた地元の友人たちとの存在。当時は「針のむしろに座っているような感覚だった」とのこと。

「勤めていた会社は割とブラックで、炎上案件に突っ込まれることも多かったので、心身ともに疲れを溜め込んでいました。そんななか、友人たちの羨望の眼差しは、自分を慰めていたような部分もあったと思います……。けど、それも限界を超えていて『辞めて地元に帰ろうかな……』なんて考えていたところだったので、友人たちとの関係悪化は、精神的にもこたえました」

 このままで地元に帰るのはツライと考えた佐野さんは、とにかく今の環境を変えねばと、一念発起することに。

「転職活動をすることにしたんです。何社か受けて、自社開発をしているSE企業に入ることができました。金銭的にも心理的にも余裕ができて、それまでのアパートを引き払い、オートロック付きのマンションに引越して、ようやく友人たちを家に呼ぶことにしたんです。みんなには『思っていたのと違う』と言われましたが、やっと本当の自分を見せられて、ほっとしました

「ようやく信頼を取り戻せた気がします」と語る佐野さん。バレないと思って自分を大きく偽ってると、いつか痛い目に遭う危険があるので注意したいですね。

<TEXT/和泉太郎 イラスト/本田しずまる(@hondashizumaru)>

特集[残念な引っ越し体験]

込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

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