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「春は嫌いだ」100人に1人が抱える吃音症。4人の当事者たちの声

暮らし

 期待と不安が入り交じる春――。人前で話す機会が増え、緊張してしまう人も多いだろう。そんななか、日本人の100人に1人が抱える吃音症の人たちに悩みを聞いた。

手すりにもたれて落ち込む女性

※画像はイメージです(以下同じ)

吃音とは……
話し言葉が滑らかに出てこない症状。「わ、わ、わたしは」のように音を繰り返す(連発)、「わーーーたしは」と引き伸ばす(伸発)、「……わたしは」と最初の言葉が出るまでに数秒かかる(難発)の3種類に分けられる。幼少期は主に連発と伸発が多く、思春期になると難発が増えてくる傾向にある。

挨拶が苦手な人たちはどう新生活を迎える?

吃音症

「春は嫌いだ」

 新しく出会った人とコミュニケーションをとる機会が増えるこの時期、人前で堂々と挨拶ができるのか不安を覚える人も多いだろう。第一印象の良しあしで、学校や会社でのその後の立場がおのずと決まってくる。

 なかでも、自己紹介はただでさえ緊張するが、言葉が滑らかに出てこない吃音の人にはさらに大問題だ。食品メーカー勤務の船曳祥二朗さん(仮名・20代男性)は、自己紹介の悩みをこう打ち明ける。

「学生の頃は『みんなと同じように話せますように』と、毎晩お祈りしていました。特に新年度の挨拶の前日は念入りに。目が覚めてからは、もう自分はつっかえずに話せるようになったと言い聞かせ、ひと言もしゃべらずに、本番の自己紹介に挑みましたけど……必ず名字の最初の音を連発し、どっと笑いが起こる。

 その時点でこれから1年間、話し方をマネされ、いじめられるのが決まる。言葉は頭にあるのに、のどがギュッとしまって出てこない。沈黙、みんなの視線、そして嘲り――。あの嫌な感覚は、吃音の人以外にはわからないでしょうね」

 いつも春は嫌いだった船曳さんだが、今年は様子が違う。

多少聞きづらくてもマスクのせいだろうって思ってくれるし、歓送迎会もコロナを理由に断れる。テレワークで、家だと電話も周りに聞かれる心配がなく、緊張しない。唯一、音声SNSのクラブハウスがはやったときは焦りましたが、すぐに下火になってホッとしています。不謹慎ですが、コロナのおかげで少しだけ春が好きになれました」

吃音症

“吃音ドクター”の菊池良和氏

吃音の人は約6割がいじめを受ける現状

 日本の吃音診療の第一人者であり、自らも吃音がある“吃音ドクター”の菊池良和氏は「吃音がいじめにつながる」と危惧する。

吃音の人は小学校から高校までの間で、約6割がいじめを受けるという研究結果があります。そのきっかけが自己紹介。『早く言えよ』と怒られたり、先生に反抗的と思われたり誤解されてしまいます。私も吃音で、幼稚園の年中のときにみんなの前で自己紹介をさせられ、うまく名前が言えず、笑われた嫌な記憶は今も覚えています。さらに父は銀行員、3年ごとに転勤です(笑)」

 2020年10月、吃音のある97人の体験談を集めた『きつねびより』を自費出版した原真琴さん@5u10guuto)は自己紹介の難しさをこう語る。

「吃音の人には苦手な行があるので、よく言い換えをします。日付なら、『6日』『明後日』『木曜日』と。でも名前は変えられないし、言い換えもできません。そして、なぜか吃音の人は自分の名字の行に苦手意識を持つ人が多い。私も名字のハ行が苦手で、2月ごろから自己紹介のプレッシャーで、余計に吃音がひどくなっていました」

吃音症

原 真琴さん「高校1年の冬、インターネットではじめて『吃音』という言葉を知りました。そのとき、ようやく『悪いのは私ではなく吃音だったんだ』とわかって、嬉しくなったのを覚えています」Twitter@5u10guuto

 現在、原さんはカフェのキッチンで働いている。一部の上司には吃音であることを伝え、働きやすい環境だったが、コロナで少し状況が変わりつつあるという

「お客さんも減っているので、少ない人数でお店を回そうと、私にもホールやレジを担当してほしいと面談で言われました。吃音の一番古い記憶は幼稚園のときに『9』が言えず、休み時間に先生から練習させられたこと。今も数字は苦手で、私がレジに立つとお客さんがかわいそうだと思ってしまいます。吃音だから許してと思いながら、お店に迷惑をかけているのもわかるので、面談では何も言えず笑ってごまかすしかできせんでした……

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