テレワークで消滅危機も…「はんこ屋さん21」が独自経営で好調なワケ
なぜ他の会社は真似しなかったのか?
そのため、はんこ屋さん21だけがたくさん出店しているのは「業界内で素早くフランチャイズ形態をとったから」というのがまずは経営コンサルタント的回答としての答えである。しかし、この答えにはすぐに次のような疑問がわく。
単にフランチャイズだけがはんこ屋さん21の秘密ならば、「なぜ他の会社は真似しなかったのか?」という疑問である。そしてこの疑問に答えてくれるのが経営学なのである。フランチャイズ形態がはんこ屋さん21の秘密のひとつだとして、なぜ他の会社は真似できなかったのか? と深掘りしていくのが経営学者の視点だ。
その答えを先取りしてしまうと、スイッチング・コストと情報的資源がカギとなる。前提として、判子の中でも儲かるのは実印や銀行印である。認印に使うような三文判ならばいざ知らず、実印や銀行印には多少凝ったデザインのものを選ぶという人が多く、必然的にこれらには数千円から数万円の判子が用いられる。
「スイッチング・コスト」と「情報的資源」
そして、こうした凝ったデザインの判子を作るには顧客の要望と判子販売店の技術とのすり合わせが必要となる。そのため、三文判のように店頭に並んでいるものをその場で買うといったことはできない。はんこ屋さん21は当然三文判も取り扱っているのだが、三文判は大きな利益を得られる商品ではないのである。
すると、一度そのハンコ屋でハンコを作ってしまったら、印鑑の修理をするときにも、また別の印鑑が必要になったときも、デザインの入校などお店とのやり取りを一からやり直すのが面倒になる。そのため一度判子を買うと、次に印鑑が必要になったときにも最初に頼んだところに頼みがちとなる。これは経営学では「スイッチング・コスト」と呼ばれている。
また、同じ状況をお店の側から見ると「情報的資源」が存在するともいえる。顧客の特性や要望などが情報として保存されることで、次回のやり取りがスムーズになるという、ある種の資源が蓄積されるのである。