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怖いのはファシストよりもポピュリスト。イタリア社会を風刺した映画監督が語る

暮らし

ドイツとイタリアのファシズムは違う?

帰ってきたムッソリーニ

――確かに現代ではムッソリーニはヒトラーほど残酷なファシストではなかったというイメージがあります。

ミニエーロ監督:私たちイタリア人も歴史の授業などを通して、「ドイツとイタリアのファシズムは違う。イタリアのファシズムは悪いこともしたけれどよいこともしたと」という認識が蔓延しています。

――それはどういうことですか?

ミニエーロ監督:ムッソリーニは鍛冶屋の息子という庶民で、非常に知性的で魅力的な一面もあったため、現在でも彼に好意的な感情を抱くイタリア人も少なくありません。また、イタリアのマフィアを一掃して治安回復を図ったり、ヴァチカン市国を承認してローマ=カトリック教会との関係を改善したり、ワールドカップを開催したりしたことなどでも評価されています。

忘れられたムッソリーニの罪

帰ってきたムッソリーニ

ルカ・ミニエーロ監督

――スポーツを政治に利用するとは、まさに大衆に取り入るポピュリスト的政策ですね。本作ではムッソリーニを人間味あるキャラクターに描きつつ、でも彼の罪も浮き彫りにしています。

ミニエーロ監督:ムッソリーニにはチャーミングな一面もあったかもしれませんが、彼は悪魔的な人間であることに間違いはありません。そこをどうしてもはっきりとさせたかった。イタリアのファシズムはドイツのナチズムほど残酷ではなかったのかもしれない。それでも、ムッソリーニは権力者の座に登りつめるために政敵を殺害し、エチオピアやアルバニアを侵略しました。特に、エチオピアでは毒ガスを大量に使用していたんです。

――それに、ムッソリーニがローマのユダヤ人をアウシュビッツのガス室に送ったということも本作を観るまでは知りませんでした。

ミニエーロ監督:ムッソリーニとヒトラーの連帯が強くなるにつれ、彼はユダヤ人排斥を打ち出し、イタリア国内にいるユダヤ人をアウシュビッツに送ってホロコーストに加担しました。彼は人種差別者であり、人種間の結婚も忌み嫌っていました。映画の冒頭では多様な人種が混在する現在のイタリアに嫌悪感を感じるムッソリーニを映し出しています。

 ちなみに作中、アルツハイマーの女性を演じたユダヤ人の女優は、実際にアウシュビッツで従兄弟を亡くした方で、彼女はこの作品に非常に共感してくれました。彼女が映画で語る言葉は本物なんです。

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