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“毒親”と衣装で読み解く「エルトン・ジョン」伝記映画監督が語る

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毒親だったエルトンの母親の正体は…

――冒頭では「The Bitch Is Back/あばずれさんのお帰り」という曲が使われていますよね。7歳のエルトンが“Bitch(ビッチ)”という言葉を歌うのにはびっくりしましたが、50年代のイギリスの郊外の街を背景に、登場人物たちが踊って歌う冒頭シーンはまさに幻想的なミュージカルでした。

フレッチャー監督:エルトンの人物像を探っていくには、彼のルーツである母親のキャラクターを描くことから始めようと思ったんです。母親は彼の存在やアイデンティティを否定する、いわゆるビッチで、彼が長い間自己否定感に悩まされた大きな原因のひとつだったから。

 なので、幼いエルトンにあの曲を歌わせて、観客を50年代へと連れていく。そこでは家族が大きく愛の欠けた生活を送っている……。物語は「この人たちは何者なのか」と観客に語りかけます。

 ひとつひとつの曲に書かれている歌詞の意味を作詞家のバーニーと確認し、観客へ伝えたいナラティブに合わせて試行錯誤しながら選曲しました。名曲がありすぎて大変でしたよ(笑)。

エルトンの曲が登場人物の内面をあぶり出す

ロケットマン

――確かに、登場人物たちの深い人物描写が秀逸でした。ビッチな母親も保守的な時代や愛のない結婚生活に抑圧されていましたし、エルトンがロックンロールにハマったのも母親の影響ですし、単なる毒親ではないですよね。

フレッチャー監督:そうなんです。ストーリーを追っていくうちに、観客は登場人物たちの“本当の姿”を知っていきますが、エルトンの曲は登場人物たちが被っている“マスク”をひきはがす役割を果たしています。

 表面的には幸せで優しそうなマスクを被っている母親がマスクを外して「I WANT LOVE/アイ・ウォント・ラブ」を歌うようにね。登場人物の内なる姿や声をエルトンの美しい旋律とバーニーの詩で表現することによって、観客はエルトンの経験やフィーリングを一緒に感じてくれたんじゃないかな。

70年代にエルトンが実際に着た衣装を使用

――エルトン・ジョンが実際に着用した衣装すべてにアクセスできたと聞きましたが、特に印象に残った衣装はありましたか?

フレッチャー監督:衣装デザイナーのジュリアン・デイと相談して、エルトンの衣装をそっくりそのままコピーするのではなく、可能な限りミュージカル・ファンタジーの世界を押し広げ、自分たちならではのエルトンを作るために、新しい解釈を加えて衣装を作りあげるようにしました。

 冒頭でタロンがまとった悪魔のような衣装は実際にはなかったもので、僕たちの物語にインスピレーションを与えてくれましたね。エルトンはあの衣装を見て「あぁ、この衣装、本当に着たかったなー!」と悔しがってましたよ。トルバドールやマジソン・スクエア・ガーデンでのライブシーンのバックグランドには、当時の雰囲気を醸し出すために彼が70年代に実際に着た衣装が掛けられているんです。

 ちなみに、若いときのエルトンは本当にスリムで小柄で、彼が着た衣装はキッズサイズのように小さいんですよ!……にしても、22歳の若者ってめちゃくちゃやせてるよねー。ちっ、なんだよ……というのは冗談だけど(笑)。タロンはマッチョだから絶対に着れなかっただろうな。

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