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「普通でいたくなかった」大学生4人が起こした強盗事件。被害は時価12億円!?

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 2004年、ケンタッキー州の大学図書館に眠る時価12億円を超えるヴィンテージ本を狙った、ごく普通の大学生4人。

 しかも『オーシャンズ11』や『レザボア・ドッグス』といった犯罪映画を参考にし、老人に変装して強盗するという大胆不敵な計画だった。この驚きの実話をそのまま映画化した『アメリカン・アニマルズ』が5月17日に公開される。

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『アメリカン・アニマルズ』©AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

 事件の犯人たちと俳優たちを劇中一緒に登場させ、映画至上類を見ない実験的な手法で米批評サイト「Rotten Tomatoes」で98%の満足度(2018年北米公開時)をたたき出した本作は、映像、構成、音楽のすべてが斬新でサスペンスフルな傑作。今回は、来日したバート・レイトン監督に話を聞いた。

簡単に測定される“成功”の意味とは?

――これはアメリカでは有名な強盗事件だったのですか? 監督は雑誌でこの事件について読んだそうですが、すぐに映画化を考えたのですか?

バート・レイトン監督(以下、レイトン監督):実はよく知られていなかった事件なんですが、初めてこの事件について読んだときは、ただ、なんて奇妙な事件だろうと思いました。よい家庭出身の恵まれた4人の大学生たちが、なんでこんなワケの分からない事件を引き起こしたのか、非常に興味をもったんです。自分の未来をリスクにしてまで成功不可能に見える強盗事件をなぜ起こしたのか、本当に不思議でした。

 そこで刑務所に服役中だった4人に実際に連絡をとり、手紙のやりとりをしているうちに、彼らが自らのアイデンティティを模索中の、自分を見失った若者たちだということが次第に分かってきた。「自分たちは“特別な存在”にならなければいけない」「平均的な人間ではダメだ」という彼らの思い込みに気がつき、映画化したいと思ったんです。

――私もアメリカの大学へ通ったのですが、中流家庭の大学生の多くが“成功すること”に固執している印象を受けました。

レイトン監督:“成功”の定義が昔とは変わってきたと思います。以前の“アメリカンドリーム”は車と家と仕事をもつことでした。現代の“成功”の意味は、極端な富を手にいれることやセレブリティになること。

 これはアメリカに限らず、私の国イギリスでも高まっている価値観です。私の両親の時代は、仕事とは安定した収入をもたらせてくれるもの。しかし、今の時代では、仕事とはクリエイティブで人生を充実させるものになってしまった。仕事や人生をとおして“伝説”を残さなければ、自分の存在価値はない……と。私たちのほとんどが平凡な人間なのに、“普通の人間”になることを恐れている。非常にリアリティに欠けた価値観ですよね。誰もがウィキペディアに載らなければいけないと思っているなんてね(笑)。

自分の人気が「いいね!」の数で計られる

アメリカン・アニマルズ

バート・レイトン監督

――確かに90年代頃からセレブという言葉が使われ始め、セレブカルチャーが台頭してきましたが、この時期から“成功”の定義が変わってきたのでしょうか?

レイトン監督:成功の定義は、それ以前からゆっくりと変わってきたように思います。でも近年のソーシャルメディアの台頭が、“成功しなければいけない”という価値観をよりいっそう加速させていることは確か。

「自分がどれだけ人気があるのか」「自分がどれだけ面白い人間なのか」という測定がSNSのフォロワーや、いいね!の数で、簡単に計れるようになってしまった……。YouTubeで自分のチャンネルをもち、有名になることも以前よりは簡単になったしね。

――では、強盗事件を起こした大学生たちが、今のSNSの時代に大学生だったら、犯罪を犯さずにYouTuberになっていたと思います?

レイトン監督:うーん、彼らはSNSではなく、もっとスゴいことをやらかしたいと思うんじゃないかな(笑)。

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