退職代行「モームリ事件」 前社長と妻に有罪判決 弁護士側との量刑の違いや「サービスの選び方」を弁護士が解説

退職代行サービス「モームリ」をめぐる弁護士法違反(周旋)などの事件で、東京地裁は8月28日、退職希望者を弁護士に違法にあっせんした罪などに問われていた運営会社前社長に対し懲役2年(執行猶予3年)、妻である元幹部に対し懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した。6月に言い渡された弁護士側の有罪判決とどのような違いがあり、司法は何を問題視したのか。また、民間の退職代行サービスを利用するにあたって、どのような点に注意すべきなのか。アディーレ法律事務所の大垣優希弁護士に話を聞いた。
目次
- 1 ① 6月には、退職希望者の紹介を受けていた弁護士側に有罪判決が言い渡されました。今回の「紹介する側」と弁護士側では、刑事責任にどのような違いがあるのでしょうか。また、双方の判決を比較することで何が見えてきますか?
- 2 ② 今回の判決によって、民間の退職代行業者が「どこまでならできるのか」という法的な線引きは、以前より明確になったと考えてよいのでしょうか。事業者が特に注意すべきポイントもあわせて教えてください。
- 3 ③ 「弁護士監修」「弁護士と提携」「労働組合と提携」などを掲げる退職代行サービスもありますが、こうした表記があれば法的に問題のないサービスだと判断してよいのでしょうか。利用者はどのように確認すべきでしょうか。
- 4 ④ 退職代行を利用する際、違法性やトラブルのリスクがある業者を見抜くためには、具体的にどのような点を確認すればよいでしょうか。
- 5 ⑤ 料金の安さや「即日退職可能」といった訴求だけでサービスを選ぶケースもあると思います。契約前に確認しておくべきサービス内容や料金体系、対応範囲などがあれば教えてください。
① 6月には、退職希望者の紹介を受けていた弁護士側に有罪判決が言い渡されました。今回の「紹介する側」と弁護士側では、刑事責任にどのような違いがあるのでしょうか。また、双方の判決を比較することで何が見えてきますか?
「紹介する側」も弁護士側も、法定刑自体はいずれも2年以下の懲役(現在は拘禁刑)又は300万円以下の罰金であり、両者に違いはありません。
もっとも、実際の量刑は、関与の態様や主導性、継続期間、利益額、組織性、反省の状況などを総合的に考慮して判断されます。今回、弁護士よりも重い量刑となったのは、リスクを認識しながらも多数の依頼者を紹介して利益を得たことが重く評価された結果だといえるでしょう。
一方で、弁護士側には刑事罰とは別に重大な影響があります。弁護士は禁錮(現在は拘禁刑)以上の有罪判決が確定すると、弁護士法上の欠格事由に該当し、登録が取り消されることになります。その意味では、刑事処分に加えて職業生命にも大きな影響が及ぶ点が特徴です。
今回の一連の判決から見えてくるのは、「紹介する側」と弁護士側のいずれか一方だけではなく、依頼者の紹介を通じて利益を得る非弁提携の仕組みそのものに対して司法が厳しい姿勢を示しているということです。依頼者の利益よりも収益が優先されかねない構造について、改めて強い警鐘が鳴らされた事案だといえます。
② 今回の判決によって、民間の退職代行業者が「どこまでならできるのか」という法的な線引きは、以前より明確になったと考えてよいのでしょうか。事業者が特に注意すべきポイントもあわせて教えてください。
今回の判決によって、民間の退職代行業者に認められる業務範囲が新たに定められたわけではありません。むしろ、これまでも存在していた法的なルールが改めて確認されたと見るべきでしょう。
もともと弁護士法では、弁護士でない者が報酬を得る目的で、法律事務を扱ったり(非弁行為)、弁護士を含む第三者に事件を紹介したりすること(非弁提携)が禁止されています。そのため、民間の退職代行業者ができるのは、あくまで本人に代わって退職の意思を会社へ伝える「使者」としての役割に限られます。有給休暇の取得を求めたり、退職日の調整をしたり、未払い残業代の支払いを請求したりすることは、会社との交渉に当たるため、民間業者が行うことはできません。
また、今回の事件で特に問題になったのは、民間業者による退職代行業務そのものではなく、利用者を特定の弁護士に紹介し、その見返りとして利益を受け取る仕組みでした。事業者としては、弁護士や労働組合と連携する場合でも、紹介料やキックバックの授受がないか、あるいは実質的に法律事務に関与していないかを十分に確認する必要があります。
③ 「弁護士監修」「弁護士と提携」「労働組合と提携」などを掲げる退職代行サービスもありますが、こうした表記があれば法的に問題のないサービスだと判断してよいのでしょうか。利用者はどのように確認すべきでしょうか。
このような表記があるからといって、そのサービスが直ちに適法で安全だと判断することはできません。利用者としては、広告上のキャッチコピーではなく、実際に誰が何をするのかを確認することが重要です。
まず、「弁護士監修」とは、一般的に弁護士がサービス内容や契約書、ウェブサイトの記載内容などを確認していることを意味します。しかし、実際に会社とやりとりするのが民間業者である以上、その業者が会社と交渉したり法的な請求を行ったりできるわけではありません。また、「弁護士と提携」という表現にも注意が必要です。適法な連携である場合もありますが、今回の事件で問題となったように、紹介料やキックバックを伴う形で利用者を弁護士へ紹介している場合には、非弁提携として弁護士法上の問題が生じる可能性があります。
一方、「労働組合と提携」または「労働組合運営」の場合、適法な労働組合であれば団体交渉権に基づき、有給休暇の消化や未払賃金などについて会社と交渉することが可能です。ただし、実質的には民間業者が運営しており、交渉権があるように見せるためだけに労働組合の名義を利用しているようなケースも指摘されています。名称だけで判断できるわけではありません。
④ 退職代行を利用する際、違法性やトラブルのリスクがある業者を見抜くためには、具体的にどのような点を確認すればよいでしょうか。
退職代行業者を利用する際は、まず運営会社の情報がきちんと公開されているかを確認しましょう。会社名や所在地、代表者名、連絡先などの基本情報が不明確な業者は、トラブルが起きた際に連絡が取れなくなるおそれがあります。
次に、自社で対応できる範囲を正直に説明しているかも重要なポイントです。民間の退職代行業者ができるのは、原則として退職の意思を会社に伝えることや、事務的なやり取りに関して連絡することまでです。「有給休暇を必ず取得させます」「会社と交渉して解決します」「残業代を回収します」といった説明をしている場合は注意が必要でしょう。
また、依頼した後に会社が反発したり、法的な問題が発生したりした場合に、どこまで対応してくれるのかも事前に確認しておきましょう。追加料金の有無や、弁護士への引継ぎが必要になった場合の対応方法なども確認しておくと安心です。
⑤ 料金の安さや「即日退職可能」といった訴求だけでサービスを選ぶケースもあると思います。契約前に確認しておくべきサービス内容や料金体系、対応範囲などがあれば教えてください。
まず確認したいのは、対応範囲です。単に退職の意思を伝えるだけであれば民間の退職代行サービスでも対応できます。一方で、有給休暇の消化や未払賃金について会社と交渉してほしい場合は労働組合、さらに法的請求や損害賠償請求への対応まで含めてワンストップで依頼したい場合は弁護士が適しています。
また、料金体系も重要なポイントです。基本料金だけでなく、追加料金の有無や発生条件を確認しておく必要があります。会社との連絡回数が増えた場合や、休日対応、書類のやり取りなどで別途費用が発生するケースもあるため注意が必要です。
さらに、退職を考えている方の中には「とにかく早く辞めたい」という気持ちが強い方も多いでしょう。しかし、実際の退職手続では、有給休暇の消化や未払残業代の問題、会社からの引き継ぎ要求などが後から出てくるケースも少なくありません。そのため、現在は単純な意思伝達だけで足りると思っていても、途中で交渉や法的対応が必要になる可能性も踏まえてサービスを選ぶことが大切です。
<法律解説>
大垣優希弁護士(第一東京弁護士会所属)
アディーレ法律事務所
夫婦問題や遺産相続、債務整理など、多様な一般民事分野に関心を持つ。法律分野に留ま
らず、日本化粧品検定1級の資格も保有するなど、専門性のさらなる深化にも意欲的で、
身近な悩みに根拠をもって寄り添う解説を志す。