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イスラエルとアメリカの“特別な関係”がわかるブラックコメディ

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『プリティ・ウーマン』(1990年)など、若いときはセクシー俳優で鳴らしたリチャード・ギア。

嘘はフィクサーのはじまり

© 2017 Oppenheimer Strategies, LLC. All Rights Reserved.

 その彼も69歳となり、ついに役者人生ではじめて初老の、それも人生の負け犬を演じた話題作『嘘はフィクサーのはじまり』が10月27日に公開されます。

 しかも、これまで映画界ではタブー視されていたイスラエルとアメリカの“特別な関係”を鋭く描いたブラックでコミカルな物語。今回は、映画の見所とともに、両国の関係をおさらいしてみましょう。

『嘘はフィクサーのはじまり』あらすじ

 世界の金融都市ニューヨークで活躍するユダヤ人の上流社会になんとか食い込もうとするノーマン・オッペンハイマー(リチャード・ギア)。

 自分が知りもしない著名なユダヤ人をあたかも知っているかのようにふるまい、様々な“儲け話”に鼻をつっこんで仲介人になろうとする彼。富裕層ユダヤ人は彼のことを怪しいブローカーだと見ていますが、本人はユダヤ人コミュニティに貢献する“フィクサー”(事件や商談などを裏で処理して報酬を得る人)のつもり。

 ある日、ニューヨークに滞在していたイスラエルの政治家ミカ・エシェル(リオル・アシュケナージ)とネットワークを築こうと近づき、なぜか、一流ブランド『ランバン』の店に一緒に立ち寄ります。ミカの人柄に魅了されたノーマンは成り行きで彼に1100ドルもする靴をプレゼントしてしまい、感激したミカはノーマンに携帯番号を教えます。

 3年後、イスラエルの首相としてニューヨークを再び訪れたミカは、ユダヤ人コミュニティにノーマンを“ニューヨークのユダヤ人名誉大使”として紹介。彼はとうとう富裕層のユダヤ人の間で注目の的になりますが、とんでもない事件が起こります……。


 

宮廷ユダヤ人とフィクサー

嘘はフィクサーのはじまり

© 2017 Oppenheimer Strategies, LLC. All Rights Reserved.

 本作を監督したヨセフ・シダーはニューヨーク生まれのイスラエル育ち。ユダヤ人の彼は、映画や物語で“宮廷ユダヤ人”がネガティブに描かれてきたことに疑問を抱き、宮廷ユダヤ人の現代版を探して、“フィクサー”というキャラクターにたどり着きました。

 宮廷ユダヤ人とは、中世ヨーロッパにおいてキリスト教徒の王国が雇った、資金運用に携わるユダヤ人銀行家や金融業者などを指し、財務の執行、軍需品の調達、貨幣の鋳造から商品の専売契約まで、外交やビジネスの駆け引きには欠かせない存在でした。ヨーロッパの王国にとって「宮廷ユダヤ人の保有量がそのまま権力の大きさの指標」と見なされるほどだったのだとか。「手にするものすべてを金に変えてみせる力」を持つという評判でした(※1)。

 祖国をもたないユダヤ人にはキリスト教社会のしがらみがない上に、国を越えた世界的なネットワークと勤勉実直な仕事ぶりが重用された理由。とはいえ、利用価値がなくなった途端、すぐに切り捨てられる運命にありました。栄華を誇った宮廷ユダヤ人の多くの末路は監獄や処刑だったといいます。

 王国の社会情勢によって気まぐれに扱われてしまった悲惨な宮廷ユダヤ人の運命が、ミカという権力者に翻弄されるノーマンの姿に重なる本作。ノーマンは自分には大した人脈もなく、ユダヤ人上流階級の人々には邪険にされていることも自覚しているはず。なのに、なぜユダヤ人コミュニティのフィクサーであることに固執したのでしょうか?
 

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