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10年で2000軒が消滅…“老舗銭湯”30歳店主に聞いた「サウナにはない銭湯の魅力」

学び

 近年のサウナブーム、レトロブームの中で、たびたび話題にあがるのが銭湯だ。しかし、厚生労働省の調査によると、スーパー銭湯、日帰りスパなどの大型温浴施設の増加に比して、いわゆる昔ながらの銭湯は全国的に急速な減少傾向にあり、2010~2020年の10年間でも2000軒ほどが姿を消している

長谷川雄太さん

千代の湯店長・長谷川雄太さん

 かくいう筆者も、設備が整い、安定して癒しが得られるスーパー銭湯や、“ととのい”を求めてのサウナに行きがちで、昔ながらの銭湯に足を運ぶ機会が少なくなっているように感じる。

 これも時代の流れか……、と感慨にふける前にちょっと待って欲しい。そもそも、私たちは銭湯のことを知っているのだろうか。ということで今回は、“銭湯好きのサラリーマン”から銭湯の店主になったという異色の経歴を持つ、西尾久の銭湯「千代の湯」店長の長谷川雄太さん(30歳)に、銭湯運営のリアルや、銭湯店主だからこそわかる銭湯の楽しみ方、そしてこれからの銭湯のあり方まで、気になる疑問をたっぷり聞いた。

銭湯店長の一日のルーティン

 銭湯に行くたびに少し憧れの目線で見てしまう番台さん。しかし当たり前のことながら、ただただ座っているわけではないようで……。

一日の仕事は、千代の湯の場合は12時前くらいにボイラーのスイッチを入れるところから始まります。うちはガスで湯を沸かしているのでスイッチを入れるだけなんですけど、薪だともっと大変だと思います。そのあと、お湯の仕込みとか表の看板の準備、軽い掃除をして13時。それで軽くご飯を食べて、14時にオープン。

 うちは私とスタッフの2人で回しているので、19時まではスタッフに任せて、裏で細かい作業をしたり、ドリンクなどの買い出しをしたりして、19時に交代。そこから24時まで番台をして、閉めたら掃除。1時間半かからないくらいかな。それでだいたい深夜1時半くらいに掃除が終わって、最後にひと風呂浴びて終わりという感じです」(以下、長谷川さん)

 意外に過酷に感じたのは筆者だけだろうか。そんな毎日を金曜から水曜まで続け、木曜の定休日は休日となるものの、普段はできないカランや鏡の掃除や、遠方への買い出しに行くことも多いそう。出かけたついでに、他の銭湯に行くことも多いそうだ。

昔ながらの銭湯は“引き算”の魅力

千代の湯の浴場(男湯)

千代の湯の浴場(男湯)。白樺の林だろうか

 どうせなら行くならサウナや露天風呂、果ては食堂や岩盤浴まで、ついつい欲張ってゴージャスな銭湯に行きたくなってしまうが、千代の湯は白湯とトゴールの湯(温泉成分が入った石が沈んでいる風呂)のみという昔ながらのストロングスタイル。先ほど述べた通り、大型温浴施設も増加傾向にある中で、昔ながらの銭湯にあえて行く魅力はどこにあるのだろうか。

「私自身もスーパー銭湯によく行っていたので魅力はよくわかります。その中で昔ながらの銭湯の魅力は“慌ただしくないこと”ではないでしょうか。例えば自分もサウナが好きでよく行くのですが、個人的にな感想で恐縮ですが『サウナに何分入って、水風呂はこの時間、そして休憩は……』と、“ととのい”を目指すルーティンに義務感を覚えてしまって、のんびりとできないことがあります。

 その点、昔ながらの銭湯は良くも悪くも大浴場しかないので、ただのんびりと湯に浸かって、満足したら出るしかできない。自分のペースでリラックスできるのが昔ながらの銭湯の魅力かもしれません」

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