人類初の不老不死となった女性が手にするものとは?映画『Arc アーク』解説
7:「ディストピア」にしなかった理由
原作者のケン・リュウは英訳された脚本を読み、長文のメールで優れた映画にするための具体的な提案をしていたそうです。石川慶監督はその中でも「この小説はディストピア(非人間的な側面が強調された未来世界)として書いていない」という言葉が特に響いたのだのだとか。
そこには「自身が子どもの頃に全盛期を迎えたテレビゲームは批判の対象になったが、実際は高度情報化社会の発展に貢献したことは明らかであり、不老不死もそういうことの一つではないか」という考えもあったのだとか。石川慶監督はテクノロジー自体を善か悪かジャッジしようとしないところにも共感し、その精神を反映するべく、特に映画の後半からディストピア感を引いたのだそうです。
確かに、劇中では出生率が大幅に低下するなどの社会への影響が示唆されているも、不老不死そのものを「悪」とは決めつけてはいません。タイトルに自己批判的なニュアンスも入っているのかもしれないと前述しましたが、最終的には「不老不死となった世の中から、学び取れるものがある」と、フィクションから現実に転換できる有用性を訴えているかのようでした。それこそが、本作の最大の意義と言っていいでしょう。
8:韓国映画『SEOBOK/ソボク』も要チェック
2021年7月16日より、『Arc アーク』と同じく不老不死をテーマとした韓国映画『SEOBOK/ソボク』が公開されます。
『SEOBOK/ソボク』で描かれるのは、人類に永遠の命を与えるために造られたクローンの少年と、余命宣告を受けた元諜報員の青年の逃亡劇。派手なアクション、銃撃戦、サイキックSFとしての見せ場も多く、落ち着いたトーンの『Arc アーク』とは好対照の内容となっていました。性格も立場も正反対の2人が初めは反発し合うも、次第に心を通わせる人間ドラマも見所です。
そのタイトルの「ソボク」は、不死の仙薬を求めて海を渡ったとされる、中国の伝説上の人物から取られています。これも「アップデートされた不老不死の物語」である『Arc アーク』とは好対照、昔ながらのおとぎ話のような不老不死の物語を元に作り上げたSF映画と言えます。それでいて、「生きる意味」を模索する物語意義深さ、最高峰のスタッフとキャストが作り上げた映画であることは、両作品で共通していました。ぜひ、『Arc アーク』と合わせて劇場でご覧になってほしいです。
<TEXT/映画ライター ヒナタカ>