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人類初の不老不死となった女性が手にするものとは?映画『Arc アーク』解説

暮らし

5:「コロナ禍の現実の世界」でこそ観る意義

 本作は、このコロナ禍の世界で観る意義も、とてつもなく大きくなっています。なぜなら、劇中の「不老不死が当たり前の世界」は、「誰もが死の恐怖を感じざるを得ない、コロナ禍の現実の世界」の「真逆」なのですから。

 劇中でも、不老不死の医療技術が世に与える影響について「人は死ぬことを恐れている以上に、死なないことも恐れている」という趣旨の言葉も投げかけられています。それは不思議なようでいて、絶対的な真理でしょう。逆説的ではありますが、その「死なない」世界を知ることで、むしろ厳しいコロナ禍の現実で「生きる意義」を見つけられるようにも思えるのです。

6:タイトルの「円弧」の意味とは

Arc

 石川慶監督は、タイトルの「Arc(円弧)」の意味について、「円弧は、円とは違って、始まりと終わりがあります。たとえ、たどり着いた終点が出発点と同じだとしても、そこまでの『軌道』に意味があるということだと受け取っています」と語っています。この解釈を知っておくと、タイトルが示唆したことが何であったのか、観終わった時に気づけることでしょう。

 また、Arcとは綴りは異なりますが、「ノアの方舟(Noah’s Ark)」もこのタイトルは意識していたのではないでしょうか。劇中の不老不死の医療技術は「永遠の命という舟に乗れる者と乗れない者とに人類が二分される」ものでもあり、神のごとき所業を人間が成り代わって行おうとしているかのような、自己批判的なニュアンスも含んでいるようにも、筆者は思えたのです。

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