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「高卒元プロ野球選手」の公認会計士が語る、折れかけた心を支えた“選手2人の存在”

ビジネス

元プロ野球選手の「杜氏」は生まれるか

奥村さん

 社長を務めるスポカチではアスリートの“本当の価値”に着目し、さまざまな職業紹介をしている。その中の1つに日本酒造りの職人「杜氏」がある。

「やはりアスリートは職人気質なところがあります。ピッチャーはボールの握りを1ミリ変えるだけで投球が変化しますし、打者もバットの太さや重さの細かい調整をして成果を上げようとします。同じく杜氏もコメの削り方、麹の分量などを微調整しながら、より良い味わいを生み出そうとする

 元プロ野球選手の杜氏が誕生したら、ファンがそのお酒を球場で飲みながら観戦するのもありですし、1~9番まで味の異なるラインナップを作るのも面白いかもしれない。伝統産業の担い手として社会貢献できるだけでなく、ストーリー性も生まれるし、さまざまな展開ができると思うんですよ」

 その他にも、プロ野球選手会が主催する戦力外通告を受けた選手へのキャリア研修、プロを夢見る子供たちやビジネスパーソンへの講演活動など、奥村さんは精力的に活動している。

「プロを引退しても、やっぱり野球が大好きだし、スポーツが好きなんです。だから、僕が頑張ることで引退後のモデルケースを示したいし、アスリートがお腹いっぱいスポーツに打ち込め、引退後も困らない環境を作りたいんです

 現状では引退後のキャリアが不安でプロの道を諦めてしまう学生もいます。優秀な人材が減れば、ゲームのパフォーマンスも低下し、スポーツの魅力そのものが失われかねません。アスリートのセカンドキャリア問題は、スポーツ界の人材確保の問題にも繋がっているんです

同期や後輩の姿が励みに

 最後に、なぜ9年間も会計士の勉強が続けられたのか。倒れても立ち上がる、不屈の精神の原点は何なのかを聞いた。

「全然、不屈じゃないです。いつも心が折れかかっていました(笑)。やはり、もうプロ野球選手でも何でもない自分を支えてくれた妻に応えたかったのが一番ですが、実は井川や球児の存在も大きいんですよ。自分は戦力外になってしまったのでジェラシーを感じることもありましたが、彼らの活躍が励みになっていました。

 あいつらが引退する頃には絶対に会計士になって、手助けできる人間になるんだって。感謝してますし、間に合って良かったです(笑)。今は後輩のプロ野球選手たちに『引退した後のことは、奥村に任せておけ。だから全力で頑張ってくれ!』って伝えたいですね」

<取材・文・撮影/中野龍>

【奥村武博】
公認会計士。1979年生まれ、岐阜県出身。土岐商高から97年ドラフト6位で阪神タイガースに入団も、度重なる怪我により2001年に戦力外通告を受け現役引退。その後、打撃投手、飲食業を経て公認会計士を目指すことを決意し、2013年に合格。日本初の元プロ野球選手からの公認会計士となる
アスリートデュアルキャリア推進機構
株式会社スポカチ
Twitter:@m59camel

1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、化学工業日報記者などを経てフリーランス。通信社で俳優インタビューを担当するほか、ウェブメディア、週刊誌等に寄稿

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