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ナチス優生思想に殺された叔母を持つ「世界的な画家」の驚きの半生

暮らし

「私たちは人生のヒーローになる必要がある」

ある画家

――そもそも映画の役割とは何だと思いますか?

ドナースマルク監督: 私達は自分の「物語」のヒーローになる必要があると思うんですよ。というのも、現実には人生が悪い方向へ向かっていたり、ハッピーエンディングにならないときもありますよね。そんなときこそ、自分自身の「物語」を紡ぐために映画があるんじゃないでしょうか?

 なぜ、私たちの多くが精神科医を必要としているんでしょう? 自分の悩みを精神科医に伝えると、精神科医は「なるほど、だったらこれを試してみたら?」と私たち自身が、自分の人生の主役になれるように「物語」を再建する手助けをしてくれますよね。そうでないと納得のいく人生を送れない。ラブストーリー、自己探求、哀しみと喪失……こういったものは基本的な人生の要素であり、文化を越えた普遍的な「物語」です。

 今は国と国の間で人が動くことが止まってしまいましたが、普遍的な物語を語る映画には「世界をつなぐ橋渡し」の役割があると思う。コロナ収束後は、こういった映画が国境を越えて旅することを望んでいます。ちなみに、私の息子たちは日本の文化が大好きなので、コロナ収束後は彼らと一緒に日本に行き、日本の人々や文化に直に触れ合うのを楽しみにしています。

<取材・文/此花わか>

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など多数Twitter:@sakuya_kono、Instagram:@wakakonohana

【公開情報】
ある画家の数奇な運命』は10月2日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
©2018 PERGAMON FILM GMBH & CO. KG / WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG

【あらすじ】
ナチ政権下のドイツで絵を描くのが好きな少年クルト(トム・シリング)は、アート好きの叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)に退廃芸術展に連れられて、自由なアートに触れる。だが、統合失調症だと診断された彼女はナチの強制収容所に入れられ、殺害されてしまう。戦後、ドイツは東西に分かれて、東ドイツに住んでいたクルトは美術学校へ入学。そこで同じ学校に通う美しい女性エリー(パウラ・ベーア)と恋に落ちる。だが、彼女の父親(セバスチャン・コッホ)は実はエリザベトを死に追いやった元ナチの高官であった。そんなことを知らずに結婚した2人は、やがて西ドイツにアートの自由を求めて亡命する。そこでクルトは様々なアーティストと交流し、自分のアートを試行錯誤しながら模索していく。一方、自身が犯した戦争犯罪が発覚しそうになったエリーの父親は……。

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