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ナチス優生思想に殺された叔母を持つ「世界的な画家」の驚きの半生

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トランプが考える「アートの牽引者」に驚き

ある画家

――誰でしょう!?

ドナースマルク監督: シルベスター・スタローンですよ!(笑)トランプ大統領がアメリカで最もアーティスティックだと思う人物が彼とはね……! スタローンは賢明な人物なので「光栄ですが……」と言って断ったそうですよ。

――ハリウッドをアート界のリーダーにしようとするとはトランプ大統領らしいというか(笑)。ところで、コロナ禍でハリウッドの状況はどうなっていますか?

ドナースマルク監督: (8月末に行われた取材時では)現在、メジャー映画のプロダクションもまだストップしたままですが、アイルランドやドイツ、そしてオーストラリアにプロダクションが移ったという映画もあります。アメリカでのプロダクションは11月の大統領選の後、恐らく来年初頭ぐらいから再開すると考えられています。

コロナ収束後における映画の役割とは?

――コロナ禍、監督はクリエイターとしてどのような活動をしているのですか?

ドナースマルク監督: 「脚本を練る時間が足りなかった」とフィルムメーカーはよく言いますが、時間がたっぷりある今の状況を踏まえると、今後は「脚本が悪い」なんて言い訳はできないですね(笑)。私も、このパンデミックではずっと映画の構想に時間を費やしています。脚本を執筆する時間はそれほどかからないんですよ。

 実はこの映画も当初は、不健康で、ハンサムでもないオペラ指揮者が苦しみや悲恋を美しいオペラに昇華する、というプロットを考えていたんです。ただ、しっくりとくる「物語」を見つけることができなかった。そんなときに、ゲルハルト・リヒターの生い立ちを知り、2007年に構想し始め、2016年にやっと撮影を始めることができました。資金集めにも時間がかかりましたしね。今は、いくつかのプロジェクトを構想中です。

――戦後にドイツで現代アートが花開いたように、戦争の後はいつも新しい文化が開花するような気がします。このコロナ禍で外へ出られず、フィルムメーカーたちが家で構想を練っているということは、何か新しい映画文化が花開くような気がしますが。

ドナースマルク監督: ストリーミング以外の新しい技術が発明されるかもしれないですが、すべてが不確実ですね……。ただ、コロナ以前から、ストリーミング市場が映画市場に追いついてきていて、その傾向はコロナ禍で加速されましたが、役者が脚本のある物語を演じるという形はなくならないと思います。

 人間は、何かを記憶に残すため、そして、誰かに聞いてもらうために、いつも「物語」を必要としてきました。例えば、キリストだって素晴らしい物語を語ることで、人々の注意をひいてきたんです。私達が世界や社会を知り、理解しようとするのは常に「物語」から。この危機だからこそ、私達は自分の立ち位置を確認したり、新しい社会に順応したりするために「物語」を必要としていると思います。

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