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24時間営業のジムが増え続ける理由。実は消費者心理を巧みに利用していた

ビジネス

過去と未来よりも現在の現金に重みが

クレジットカード

 もうひとつ、人間は最初に払ったお金や月々の支払い予定を現在の財布に入った「現金」より過小評価してしまうという特性がある。人間にとっては、過去と未来よりも現在のほうに重みがあるのだ。ほとんどの会員が会費をカード決済か、銀行引き落としにしている。目の前の現金がなくなるわけではないし、過去に支払ったお金はもうどうにもならないし、というように支払いを過小評価する一方で「いつジムを使うかわからないし」という見積もりを過大評価してしまうことも要因として挙げられるだろう。

 このように、経営学者的な視点からは、表面的なビジネスの裏にある人間心理まで踏まえた上で、新たなビジネスモデルを理解することが可能になる。

 ただし、新型コロナウイルス感染症の流行と、それによって生じた生活の変化によって、これまで通用したビジネスモデルの論理が通用しなくなってきていることもまた真実である。

 実際にはジムに通っていなかった月が多かったという人でも、新型コロナの影響によって一方的な利用禁止を突きつけられると「損だ」と感じて解約を決意することもあるだろう。こうした影響は多方面で生じている。とはいえ、人間心理の法則自体はそう簡単には変化しないため、新たな収益モデルを考える際にも経営学の知見は再利用できるだろう。

<TEXT/明治学院大学経済学部専任講師・経営学者 岩尾俊兵>

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県生まれ、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の博士(経営学)を授与され、2021年より現職。第37回組織学会高宮賞著書部門、第22回日本生産管理学会賞理論書部門、第36回組織学会高宮賞論文部門受賞。近刊に『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版) Twitter:@iwaoshumpei

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