年間40億PV!「気象予報ビジネス」を変えた震災の教訓
少数精鋭で「ユーザー目線」のサイト運営
――広告収入に不可欠なPV数アップにどのように取り組まれてきましたか?
池田:「tenki.jp」は、もともとは日本気象協会が中心に公益事業として立ち上げたメディアで、それに協力する形で私たちがアサインしました。
サイトづくりは当時から「ユーザー目線」を一貫しています。サイト構造や記事、気象情報の加工など、ユーザーの知りたい情報や見方に沿ったコンテンツを時にはABテストを実施しながら提供しています。
また、ユーザー動向も常にチェックしており、年齢・地域・降水量などに細かく分類して行動パターンを分析。サイトの構成などに反映しています。気象予報のプロフェッショナルとして、知識や経験を豊富に蓄積するために、外注はほとんど使わず少数精鋭で運営しているのも特徴のひとつでしょう。
――今後は「災害」がキーワードとか。
池田:そうですね。気象予報メディアの「Yahoo!天気」や「ウェザーニュース」との差別化として災害情報の発信に注力し、社会的インフラという立場を確立したいと考えています。
その大きな理由は、気象予報ビジネスを語るうえでは避けらない大災害「東日本大震災」です。未曾有の震災を体験し、気象予報はビジネスだけでなく社会で非常に重要な役割を持つことを再認識させられました。東日本大震災は、当社が上場したひとつのきっかけでもあるのです。
――詳しくお話いただけますか。
池田:被災時のもっとも情報が欲しい時期に対応しきれなかったことが、私たちの大きな反省点でした。気象予報メディアのアクセス数は災害が起こると、普段の何百倍も増えることは珍しくありません。その際にサーバーが負荷に耐えきれずにダウンしてしまうと、ユーザーは「tenki.jp」を見ることできなくなってしまうのです。
当社も運営に携わった当初から課題に挙げており、都度サーバーを強化するなど対策を重ねていたので、それまで大きな問題になることはなかったのですが……。
気象予報メディアのトップ3がダウンした
――東日本大震災では違ったと。
池田:はい。毎秒、通常の約千倍という莫大なアクセスが集まりました。それも長期間に渡ったため、スタッフ総出でサイトを復旧してもまた見られなくなる……。というサイクルを繰り返してしまったのです。
これは気象予報メディア全般を巻き込んだ現象で、気象予報メディアのトップ3である「Yahoo!天気」、「tenki.jp」、「ウェザーニュース」がいずれもサーバーダウン。復旧したサイトに3サイトのユーザーが詰めかけ、まもなくダウンしてしまうというイタチごっこのような状況になっていました。
――その後の対応は。
池田:まずはCTO(最高技術責任者)の松本(修士取締役)が主導し、サーバーを強化しました。ただ単にサーバーの数を増やすだけではなく、東日本大震災規模の災害が発生してもダウンしない効率的な処理と、スピーディーに災害情報を発信できる効率的な配信環境を両立。何度も検証を行い、同規模の災害が発生してもダウンしないサーバー環境を構築しました。
実際、2018年に起きた西日本豪雨ではアクセス数が跳ね上がりましたが、問題なく情報を発信することができました。約280万人のフォロワーがいるTwitterも活用し、災害情報を発信しています。
――震災後の「tenki.jp」に変化はありましたか。
池田:平均的なアクセス数が増大しました。通常の災害時は、瞬間的にアクセス数が増えてもすぐに元の数値に戻るのですが、東日本大震災後は元の数字自体が上昇したのです。これは日本人の防災意識や天気予報の重要性が、東日本大震災をきっかけに高まったことが原因だと考えています。