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気鋭のアートディーラーが注目する「都内で見るべきギャラリー」5選

コラム

 世界的に現代アートの市場が活況を呈している。

 近年は、アートの投資的な側面が強調され、「ブルーチップ」と言われるような特定の有名作家にばかり関心が集まりがちだ。しかし、国内外の現代アート市場に精通するアートディーラー・宮下和秀氏は「若手アーティストを発掘し、エッジの効いた良質な展示で注目を集めているギャラリーが徐々に増えている」と言う。

宮下和秀氏

アートディーラー・宮下和秀氏

 そこで今回は、宮下氏が推薦する今見ておきたい都内の新興ギャラリー5選をお届けする。

No.1)NANZUKA(渋谷)

NANZUKA

NANZUKA:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目17-3 渋谷アイビスビルB2F

 サブカルの中心地といわれる渋谷のランドマーク、渋谷ヒカリエを通り抜けた場所に「NANZUKA」はある。

 日本版『月刊PLAY BOY』誌の元アートディレクターで、現在は海外でも人気の画家・ビデオアーティストの田名網敬一や、SONY「AIBO」のデザイナーだった空山基、スーパーリアルな作風で有名な山口はるみの作品を海外に紹介しブレイクさせた実績を持つ。

 国内外の若手アーティストを発掘、育成し、アート・バーゼルやアート・ケルンなど海外のアートフェアにも積極的に参加している。注目のアーティスト集団「カオス*ラウンジ」の梅沢和木も取扱作家の一人だ。

「NANZUKA」はストリートアートに強いギャラリーと言われるが、かつてはファインアートとは見なされていなかったサブカル的な作品を、美術の文脈に組み入れることを戦略的に行った先駆者的なギャラリーだ。現在、「ピーター・ソール/エリック・パーカー」展を開催中(7月6日まで)

No.2)Maki Fine Arts(神楽坂)

Maki Fine Arts

Maki Fine Arts:〒162-0812 東京都新宿区西五軒町5丁目1エーワビル1F

 東京・神楽坂の住宅街に、取り残されたように存在する印刷工場跡にひっそりとたたずむ「Maki Fine Arts/マキファインアーツ」は、国内外の勢いのある若手作家を勢力的に紹介する、実力派ギャラリーだ。

 今やメトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館にも作品が収蔵されている、新聞紙のイメージやパターンを組み合わせた作風で有名な画家、アレックス・ダッジをいち早く日本に紹介した。一般的に日本で売ることが難しいと思われてきた海外の注目若手アーティストを、戦略的に国内で販売し結果を出しているという点で、大いに評価されるべきだろう。

 日本人の若手では、レイヤーが幾重にも重なった、イメージと現実の境界を曖昧にしてしまう写真作品で脚光を浴びる、加納俊輔が所属している。アート通販会社で経験を積んだ後、ニューヨークで美術市場について学んだオーナーは、国内外のアート動向に精通している。池田衆「Object and Image」展を開催中(6月23日まで)

No.3)KOKI ARTS(馬喰町)

KOKIARTS

KOKI ARTS:〒101-0031 東京都千代田区東神田1丁目15-2 ローズ ビル 1F

 ニューヨークは現代アートの中心地と言われる。幼児期から高校時代までを、そのニューヨークで過ごしたオーナーが運営するギャラリー「KOKI ARTS」も、アメリカ市場との繋がりがとても強い。

 国内外の美術館に作品が所蔵される、巨匠・篠田守男の作品を扱っていることでも有名だが、ニューヨークで活動する若手アーティストを積極的に日本で紹介し、一方で、日本の若手アーティストの作品を、スプリング・ブレイクなどニューヨークのアートフェアなどに持ち込み、紹介している。

 同ギャラリーが扱うアーティストの中でも、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が彼の作品を購入した、’82年生まれのペインター・中村亮一は注目株だろう。中村は、綿密な歴史リサーチに基づき、歴史に翻弄される人々の存在にフォーカスした作品などで、脚光を浴びる存在になった。「Corydon Cowansage」展を開催中(7月3日まで)

No.4)KANA KAWANISHI GALLERY(清澄白河)

KANA KAWANISHI GALLERY

KANA KAWANISHI GALLERY:〒135-0021 東京都江東区白河4丁目7-6
Photo:OMOTE Nobutada

 東京都現代美術館の近く、清澄白河にある「KANA KAWANISHI GALLERY」もまた、日本の若手、特に30〜40代のアーティストをサポートし、意欲的に海外に紹介している新興ギャラリーだ。

 アメリカだけでなく、ロンドンやアムステルダムのアートフェアに出展するなど、ヨーロッパの市場にも繋がりを持っている。写真作品に強いギャラリーとしても有名で、東京・西麻布に写真を専門に扱う「KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY」を展開している。

 2019年度「木村伊兵衛写真賞」を受賞した、写真家・岩根愛の作品も取り扱う。ニューヨークで美術メディアの編集者として経験を積み、今も編集者として活動するという異色のプロフィールを持つ、女性オーナーが運営している。長谷良樹展「DESSIN」を開催中(7月6日まで)。「KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY」では、岩根愛個展「ARMS」を開催中(6月15日まで)。

No.5)LOKO GALLERY(代官山)

LOKO GALLERY

LOKO GALLERY:〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町12-6

 東京・代官山の閑静な住宅街にある「LOKO GALLERY」は、正面がギャラリーに併設するカフェ・スペース、ギャリースペースは自然光を取り入れた吹き抜けの空間になっている。

 同ギャラリーは、ヨーロッパ、特に北欧やイスラエルの注目アーティストをいち早く日本に紹介するとともに、日本の若手アーティストもサポートしている。幻想的な世界観を持つ作品で、ヨーロッパで脚光を浴びた、フィンランドの86年生まれの若手作家、ヴィレ・アンデションの作品をいち早く日本に紹介している。

 また、「アジアンアートアワード2018」のファイナリストで、現代社会の閉塞感や人間の狂気を象徴的かつユーモラスに表現する、映像・パフォーマンスアーティスト、和田昌宏も同ギャラリー所属の若手注目株だ。現在開催中の展示はないが、7月12日~8月10日まで渡辺佑基「ねじれの回廊」展を開催予定。

<取材・文/櫻田進ノ介>

【宮下和秀/みやした・かずひで】
アートディーラー、MUG代表。1976年神戸市生まれ、関西大学法学部卒、ブカレスト演劇映画大学中退。英語とルーマニア語を話す。東京とドイツ・ベルリンに活動拠点を持ち、国内外の現代アート市場動向に精通

文筆家、編集者、80年代カルチャー研究家、育毛研究家、多国籍読書会主宰、コンテンツ企画販売中。Twitterは@kojiro_1975

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