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「痴漢」依存症になる、普通の大卒サラリーマンたち

依存症は本人だけが悪いのか?

――依存症治療の考え方にはどのようなものがありますか?

斉藤:「回復責任論」があります。依存症になってしまったのは本人だけの責任ではなく、遺伝的な要因、心理社会的な要因、環境的な要因といったさまざまな要因が重なり合っています。ある種の不健康な生活習慣として、その物や行為、関係性に耽溺していく構造があります。

 誰かに迷惑をかけたり、自分が傷つくといった社会的、経済的、身体的な損失を繰り返すなかで、自らの生き方の問題に気づき、回復する責任が生まれます。依存症になった以上、その問題に取り組む責任は本人にあるのです。

――なるほど。当事者だけに責任を押し付けてはいけないと。

斉藤:日本では、お酒やパチンコのテレビCMも沢山流れているように、アルコールもギャンブルも社会が推奨しているところもある。ただ、いざ依存症になって問題が起きたら当人にだけ責任を求める「自己責任論」が主流です。

 自己責任論から回復責任論への転換というのが、これからの成熟した社会を考えていく上での大きなポイントになりますよね。それこそ、回復責任論という言葉が流行語大賞にでも選ばれるくらいになってほしいものです。

「自分の依存症に見て見ぬふり」が一番よくない

横断歩道

――私自身、若い頃ですがよくナンパをしていた時期があります。痴漢や依存症という問題を他人事にできない思いがあるのですが……。

斉藤:他人事に思えないからこそ抑止力になっていることもあります。自己の依存症の問題に対して見て見ぬ振りをするというのが一番よくない。依存症の治療ではまず自分が依存症だと認めることが第一歩になりますから。

 性犯罪に関しては、女性をどのように捉えているかではないでしょうか。ナンパをゲーム感覚で「数打てばあたる」と捉えているなら、女性を軽視してモノと捉えていることになります。

誰かに助けを求めるというスキルが重要

――最後にソーシャルワーカーとして、読者にメッセージをお願いします。

斉藤:今は2020年の東京オリンピックに向けて、世界の標準に日本が近づこうとしている時期です。そういうプロセスの中で世界の基準を積極的に取り入れていって欲しいと思います。古い枠組みに囚われるのではなく、新しい価値観を積極的にインストールしていく。そして、自分自身をアップデートしていってください。

 アメリカは依存症治療をカミングアウトすることは「ちゃんと自分の問題と向き合っている」という評価につながります。でも日本では、自分の弱みをオープンにしづらい風土がまだまだあります。

 私がクリニックで働き始めた1年目の頃「あなたは抱え込みやすい性格だからこのままじゃ仕事が続かないよ」って言われました。それを改善すべく上司から出された課題が「1日3回、誰かに助けを求める」ことの実践でした。

 これは本当にきつかったのですが、繰り返していくとだんだんとできるようになっていきました。誰かに助けを求めるのは、生きていくためのひとつのスキルです。それによって自分の弱さをオープンにできる関係性や依存先を積極的に作っていってほしいと思います。

<取材・文/石井通之>

斉藤章佳
1979年生まれ。精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アルコール依存症を中心に薬物・ギャンブル・性犯罪・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(イースト・プレス)など

元エロ本編集者。高校卒業後、クリエイティブな分野に憧れて美術大学を目指すも、センスと根気のなさゆえに挫折。大学卒業後、就職した風俗雑誌の編集部でキャリアをスタートさせる。イベントレポートとインタビューが得意(似顔絵イラスト/koya)