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「痴漢」依存症になる、普通の大卒サラリーマンたち

万引きの世間のイメージと実態の乖離とは?

――万引きに関してはどうですか?

斉藤:万引きも偏った認識をされている点では似ています。高齢者で年金生活でぎりぎりの単身生活をしている貧しい人と思われがちです。でも、クリニックを訪れる人は、食べるお金に困っていたり、転売目的で窃盗するという人はいません。逆に経済的に裕福な人がほとんどです。

 窃盗を繰り返してしまう「クレプトマニア(窃盗症)」には女性で主婦が多いです。彼女たちは自己使用や金銭的価値のためではなく、家事や育児などのケア労働に対するストレスへの対処行動として行動化する場合が多いです。

――万引きは社会的にも大きな問題です。

斉藤:実は万引きは被害額がとてつもなく大きいんですよ。警察で認識しているだけで1日約13億円、年間にすると約5000億円です。これも氷山の一角でしょうがクリニックに訪れる人はだいたい10回に1回は捕まった経験があります。

 単純計算でも、実際は10倍の1日100億円以上の損失があることになります。痴漢も万引きも軽視されがちですが、身近でありながらも深刻な社会問題だと捉えています。

認知のゆがみと、どう向き合うべきか

聴診器をかざす医師

――依存症の根っこにあるものとして“認知のゆがみ”という言葉をよく目にします。これは何でしょうか?

斉藤:自分にとって都合のいい現実の捉え方、問題行動を繰り返してしまう当人に都合のいい枠組みが“認知のゆがみ”になります。性犯罪で一番不可解で恐ろしいのが、この認知のゆがみです。

 例えば、痴漢の常習者は「女性専用車両に乗ってない女性は痴漢されたい人たち」という認識を持っている。これが彼にとっての現実の捉え方です。痴漢という行為が相手を傷つけるものだという認識が皆無です。

 クリニックでは約15年前から性犯罪の再発防止プログラムを行っていますが、治療を受けに来るのは逮捕歴がある人が多い。「もし捕まらなかったら痴漢を続けてましたか」って聞くと、みんな「はい」って答えます。逮捕を経て、ようやく自分の問題行動に気づいて治療を受けることになります。

認知のゆがみは治療で修正できる?

――治療によって“認知のゆがみ”を修正できるものなのでしょうか。

斉藤:修正することはできますよ。ただ、“認知のゆがみ”に関しては、個人の問題だけではなくて、社会と個人で強化し合ってる側面もあります。著書にも書いたのですが、日本社会は男尊女卑や女性蔑視の価値観が根強く、加害者のパーソナリティ形成に強い影響を与えています。

 そもそも私たちが男女関係のロールモデルを学ぶのは身近にいる両親です。父親がそういう男尊女卑的な考えを持っていて、日常的に母親を罵倒したり暴力を振るっていれば、そういう価値観が子どもの中で内面化されて、将来、その子どもは女性の人権を軽視する大人に育つ可能性があります。

――依存症も”認知のゆがみ“も実際に問題にならないと、気づかないし自覚されない。これは非常に恐ろしく感じるところなのですが……。

斉藤:そうですね。でも、気づいて自覚することも含め、依存症になることで得るものもあるんですよね。その人が今まで気づけなかった物事の捉え方だったり、自分自身の限界を知ることになります。