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独裁者は普通の人間。ナチス将校を装い大量虐殺をした20歳の少年

 第二次世界大戦末期、20歳にも満たぬ少年がナチス将校の軍服を拾い、ナチス大尉のふりをしながら大量殺人事件を犯したという、衝撃の実話を映画化した話題作『ちいさな独裁者』が2月8日に公開されます。

 監督は「ダイバージェント」シリーズ、『フライトプラン』(2005年)や『きみがぼくを見つけた日』(2009年)を手がけたドイツ人監督、ロベルト・シュヴェンケ。

ロベルト・シュヴェンケ

ロベルト・シュヴェンケ監督

 アクションからラブストーリーまで自由自在に物語を紡ぐ気鋭の監督が「これまでのナチス映画とは絶対に違うものを作りたかった」と語る力作。来日したシュヴェンケ監督にインタビューを行いました。

言語化できない人間の心を描きたかった

――本作のモデルとなった20歳の将兵、ヴィリー・ヘロルトについては知っていたのですか?

ロベルト・シュヴェンケ監督(以下、シュヴェンケ監督):これまでのドイツ映画とは違う視点で第二次世界大戦の映画を作りたくて、リサーチをしていくうちにヘロルトについて知りました。

 悪いナチスと良いナチスが登場したり、人間の善悪や作品のメッセージを言葉ではっきりと語ったりするのではなく、観客が自分で考える“余白”を残す映画を作りたかったんですね。観客が自分自身をヘロルトに見出せるような、そんな作品にしたかった。

――だから本作では、ヘロルトの生い立ちや心情を語るセリフがひとつも出てこなかったのですか?

シュヴェンケ監督:もし、ヘロルトの心や生い立ちを心理用語で説明してしまったら、観る人は「この人は、サイコパスだし、狂人だ。私とは違う」と距離を置いてしまうのでは? ヘロルトはどこにでもいる、私たちの一人。詐欺師としての才能はあったかもしれないけれど、彼は私たちと変わらない普通の人間なんです。もし、第二次世界大戦中に生きていなかったら、きっと犯罪者にもならなかったでしょう。

――人間の心というのは、心理学用語のような言葉では説明できないと?

シュヴェンケ監督:心理学は人間の心を解き明かす鍵のように思われがちですが、私はどちらかというと、人間性を理解する“壁”になっていると思っています。人間って、善と悪に二極化も、明確に言語化もできない、非常にグレーな部分があるのでは? と。

 私たちは皆、どこかで理性を越えてしまう自分の“境界線”があると思っています。それは人それぞれ違うでしょう。そして、自分の“境界線”を自覚することが、悲劇を防ぐ唯一の方法だと思う。人は状況によっては善にも悪にもなれる――こういった人間性を無視してはいけない――これが本作のテーマです。

ドイツ人は「ある意味、安心した」

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――監督はこの作品を通して、人間性について何を学んだのでしょう?

シュヴェンケ監督:私たち人類が自然界で生き延びることができたのは、殺人者のDNAが刻み込まれているからだ、ということかな(笑)。だから、私たちはどんな恐ろしいことだってできる。一番知ってほしいのは、この映画で起きる大量殺人は防ぐことができた事件だということ。

 ヘロルトに付いてきた兵士から収容所の所長まで、ヘロルトのことを皆怪しいと思っていました。でも、自分たちで決断する責任をとりたくなかったり、私利私欲に目がくらんだりといった理由で、みながヘロルトに従うことを選んだんです。「誰もNOと言わなかったら、何が起きるか?」それを考えてほしい。

――正直言って、この映画で浮き彫りにされる“人間性”を直視することが難しかったです。ドイツではどのような反応があったのでしょうか?

シュヴェンケ監督:ファシズムを浮き彫りにした映画を直視することは誰にとっても難しいでしょうね。

 ドイツでは、アカデミー賞に匹敵する映画祭で作品賞を取りましたし、最初の公開週では、マーベル映画と並んで劇場動員数がトップ10にランクインしました。ドイツ人はこの作品を非常に高く評価してくれました。ありがちなナチス映画とは違ったものも観られるんだと、ある意味、安心したんじゃないかな。