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27歳助産師“シオリーヌ”が小中学生に「性教育」を行う理由

学び

――日本の性教育の現状について教えてください。

大貫:中学校の学習指導要領には「はどめ規定」と呼ばれるものがあって、精子と卵子が出会って受精して出産しますという話はあっても「受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」とあります。つまりは性行為から受精にいたる具体的なプロセスの部分は取り扱わないことになっています。

 ただ「はどめ規定」はすべての子どもたちに発展的な内容を教えてはならないということではなくて、学校や地域の実情に即してもっと発展的なことを教えてよいはずなんです。

 今年の3月、足立区の中学校で避妊や中絶を取り扱った授業に対して、自民党の都議会議員の方が「いきすぎた授業」「不適切」と問題視したことがありました。この議員の方と同じような考えを持つ方はまだまだ多い気がしますね。

――世界的にみて、日本の性教育は遅れてるという認識でしょうか。

大貫:ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が作っている国際セクシュアリティ教育ガイダンスというのがあるんですよね。5歳から18歳以上にいたるまで性教育のステップが定められていて、年齢に応じてこれくらいのことが理解できるようにという目安が示されています。日本でいう中学生の時点だと、彼らは性交、避妊、中絶について学んで、ちゃんと自分の口で説明できるようにならなくてはなりませんというふうに。

 日本が具体的な性教育に二の足を踏んでいるのは、早い時期に性教育を施すことで、興味本位で望まない妊娠や中絶が増えるかも知れないというような考えが多いからです。

 でも、国際セクシュアリティ教育ガイダンスの調査結果だと、早い段階で性教育を行うことで、初めて性行為をする年齢は遅まるというようなことが示されてます。

 もっと早い時期に性教育を始めてあげたほうが、むしろ慎重に考えられるようになる。日本では、大人が子どもを甘く見過ぎてますよね。性教育の発展には、先ず大人の意識を変える必要がある気がします。

子供達からの一番多い質問は…

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小学生向けの性教育ワークショップにて(提供/大貫詩織さん)

――主に学校で講演活動をされていますけど、学校の先生や子どもたちの反応は?

大貫:教える内容に関しては、基本的に学校側の意向を汲み取るようにしています。養護教諭の方は性教育に対して熱意がある方も多くて、包括的な性教育に賛同している方も多いんですけど、最終的には校長先生の判断に委ねられるため実現が難しいことも多いです。

 子どもたちの反応でいうと、最初はふざけ半分で「今日はセックスの授業だ」って聴いていても、後半になるに連れて真剣に聴いてくれるようになることがほとんどです。

 講演を行う前に質問を募ることがあるんですけど、男の子で一番多いのは「何歳になったらセックスしてもいいんですか」というもの。反対に女の子の場合だと「彼氏に求められたときにどうしたらいいか」というような質問が多いですね。

 男の子は周りの大人の影響なのか、マスターベーションに対して罪悪感を持ってる子が意外と多いんですよね。性欲を相手にぶつけることが暴力になることはキチンと伝える一方で、マスターベーションが性欲をコントロールする意味で善いことだということを、もっとポジティブに捉えてくれてもいい気がするんですけどね。

――“me too(女性による性被害の告発)”や“incel(男性による女性蔑視)”などが、メディアで取り沙汰されることが多くなりました。男女が分断されて対立しあっている構造が見えますけど、そうした事態に対してはどのような意見をお持ちですか。

大貫:対立している、というよりは今までの社会のあり方が偏っていたと思うんですよね。女性は男性の要求に応じるのが当然だと思われていたから、女性が権利を主張するイメージが社会的に浸透してなかった。だから“対立”と感じられるのかもしれません。でも“me too”を発信している人たちの多くは、男性と対立したいとかではなくて、自分たちが傷ついたということを理解して、もう同じことをしないでもらいたいだけだと思うんですよ。

 女性が権利を主張することで、男性が攻撃されていると受け取ってしまうのはカップル間でも起こり得ます。男性が「セックスをしたい」と女性を誘ったときに「今日はちょっとそんな気分じゃない」って断ったとするじゃないですか。それを自分自身を否定されたと感じてしまう男性も少なくないですよね。

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