鴎来堂・柳下恭平「おっさんの成功体験ほど信じてはいけない」
「上司がしょうもないのは仕方ない」を理解する
――では、プレイヤー世代である若者はどうしたらよいのでしょうか?
柳下:まずは「プレイヤーとしての楽しさ」と「マネージャーのとしての楽しさ」を履き違えないことですね。そして、誤解を恐れずに言えば、「上司がしょうもないのは仕方ない」を理解することですね。親と上司は選べません。上司や会社のシステムに不満があるなら、一番手っ取り早い方法は転職だと思いますね。
――なるほど。ズバリ言いますね……。
柳下:ただ、実は転職してもあまり変わらないってことも多いと思います。結局、「上司は選べない」から。「上司がしょうもない」っていうのは、所属しているレイヤーが違うからなんですよね。目標達成のスパンが上司と部下で共有できないから、そもそも意見が合うわけがない。
だから僕は、今のプレイングのなかに楽しさを求めたほうがいいと思っています。経営者なので、労基的に社内では口にしませんが、個人的には若いうちになるべくたくさん楽しく働いたほうがいいと思います。
――柳下さんの20代はどう働いていたのでしょうか?
柳下:なんて偉そうなことを言いながら、僕は、20代半ばまでほとんど仕事はしていなかったんですよねぇ(笑)。28歳のとき、今の会社を立ち上げて、編集や校閲の技術を身につけてからは、ひたすらそのスキルを磨いてきました。
でもそうやって20代で積み上げた仕事は、30代で生きてきます。僕は今、42歳ですが、30代の経験が生きていて、今の40代の仕事は50代で生きると思ってるんです。だから結局は20代で積み上げた土台の高さ、頑丈さが大事ですね。
――なるほど。20代はとにかく積み上げる時期だと。
柳下:ただ一方で、おっさんの成功体験ほど信じてはいけないと思うんです。僕自身は20代の頃、仕事の量をこなすことで評価を得てきたのですが、それは量が質を生むという業種でもあったからです。あまりスマートじゃない方法ですね。
これ、僕の麻雀必勝法にも通じていて、3日徹夜で打ち続けると、周りがつぶれて優勝できるっていう。他人にはまったくオススメできない方法です(笑)。
あと、「とにかく積み上げる」というと、「がむしゃらに働け」って意味にも取れますが、それよりも、社内でも社外でも人脈を広げていくほうが大切だし、自分の技術や経験を積み上げるというほうが大切ですね。ただただ、量をこなすのではなく、正しい努力ができるといいですね。
――土台を積み上げていくチャンスに出会うにはどうしたらいいでしょうか?
柳下:これはもう、つまらない答えと思われるかもしれませんが、いつも「ニコニコ」していることと、「ありがとう」などの挨拶ができることだと思います。
嫌そうな顔で10の仕事を引き受けるよりも「わかりました、頑張ります!」と言って、10の仕事を引き受けたほうが、ほとんど同じ結果でも、絶対に高評価ですから。僕の行動指針は「どうせやるならニコニコやろう」です。
あと、海外で友だちができる人って語学力うんぬんではなく、会話して楽しそうな人なんです。日本語で友だちとおもしろく話せないのに、英語で話せるわけないですからね。「話しかけやすい人であること」ってとても大切だと思います。
――たしかにそのほうがまたお仕事したくなりますね。
柳下:あとは、いつでも同じパフォーマンスを出すことは大事です。たとえば最近、人前で話す機会が増えてきたのですが、今この場で話して100点、人前で話して40点だったら、ここでも、人前でも60点で話せたほうがいい。パフォーマンスがある程度一定というのは大切ですね。最高点を上げるよりも平均点が高いというのがとても大事です。
――柳下さんが代表の会社「鴎来堂」にはアルバイトの方を含め、多くの20代が働いていますが、彼らの働き方を見てどう感じますか?
柳下:若い人の働きぶりかぁ。……これ、答えるのが難しいですね。うーん、最近僕の周りの20代、とくに20代後半の人たちに、恋人がいない人が増えている気がしますね。
「恋人がいない人」とは――。なぜ恋人がいないことと、若い人の働き方が関連するのでしょうか。柳下恭平さんインタビューは次回に続きます。
【柳下恭平】
1976年生まれ。エディトリアル・ジェットセット。世界中を放浪したのちに、帰国後に出版社に勤務。28歳で校正・校閲を専門とする会社、鴎来堂(おうらいどう)を創業。2014年末には神楽坂に書店「かもめブックス」を開店
インタビュー後半はこちら
⇒ 若者が恋愛できないのは「忙しすぎるからだ」
<取材・文/井野祐真>