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インスタに「#給与明細」をアップする人が急増中。何のために?

コラム

会社にバレたらどんなリスクがある?

 とはいえ、こういった行為が関係者に発覚した場合、どのようなリスクが考えられるのか。パロス法律事務所の櫻町直樹さんに話を聞きました。

「会社の就業規則に『仕事上で知り得た情報の漏洩を禁止』とある場合、給与明細に記載されている情報(基本給や手当の額、労働時間など)が、就業規則にいう『仕事上で知り得た情報』にあたるかが問題となりますが、基本的にはあたらないと考えるべきでしょう

 すなわち、漏洩が禁止される『仕事上で知り得た情報』として一般的に想定されるのは、例えば開発中の商品・サービスに関する情報、あるいは顧客についての情報といった、会社が事業活動を営む上で必要かつ重要なものであり、外部に漏洩した場合には会社に損害を与える可能性があるようなものでしょう」

 なぜ「基本給や手当の額、労働時間」といった情報が、重要な情報には当たらないのでしょうか?

「外部に知られたからといって会社に損害を与えるようなものではなく、労働基準法15条1項が『使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない』と規定しています。

 したがって、給与明細に記載されている情報は、そもそも労働者の採用にあたって会社が明示すべき性質のものであり、公開したとしても、就業規則にいう『仕事上で知り得た情報の漏洩を禁止』に違反する行為であるとはいえず、懲戒処分の対象にはならないのです」

「名誉毀損」にあたるかどうか

言い争いするビジネスパーソン

 では、懲戒処分の対象にはならなくとも、前例の神田さんのように不特定多数に向けて給与明細を公開する行為が、会社を貶める名誉毀損に当たらないかどうかについてはどう考えるべきでしょうか?

こちらもあたらないと考えるべきでしょう。名誉毀損については、最高裁昭和31年7月20日判決(民集10巻8号1059頁)が『名誉を毀損するとは、人の社会的評価を傷つけることに外ならない。それ故、所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもつて名誉毀損の記事と目すべきことは当然である』と判示しており、ある表現が『社会的評価を傷つける(低下させる)』ものであれば、名誉毀損にあたるとしています」

 そうすると、給与明細を公開することによって、会社の「社会的評価を傷つけた」といえるのか。一般的な感覚だと、給与明細に記載されている情報(基本給や手当の額、労働時間等)を公開することによって、その会社の社会的評価が傷つけられれたといえそうですが……。

いえ、そうとは言い難いです。したがって、給与明細の公開は名誉毀損にはあたらないといえるでしょう。もっとも給与明細を公開するという行為が法的な責任を生じるものではないとしても、会社がそうした行為を好ましく思わない場合、例えば、就業規則に『会社の秩序、風紀を乱す行為』といったものが懲戒事由として挙げられている場合には、これを根拠に懲戒される可能性がないとは言えません」

 たしかに労働者としては、給与が低いことについて、会社に対して直接に不満を言ったり、声を上げたりするのは難しいかもしれません。とはいえ、櫻町さんはこう注意を促します。

「しかし、だからといってSNS上で給与明細を公開しても、問題の解決にはつながらないどころか、懲戒処分がなされる可能性があることに留意し、そうした行為は控えたほうがよいのではないかと思います」

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