三菱UFJ銀行「新卒年収1000万円」報道を見て、私が「遅い」と感じたワケ/常見陽平
「安心」「信頼」「憧れ」とは逆の感情が
実は就活生の人気企業ランキングには採用数も影響する。採用を重点的に行っている時期は人気が上がるのである。ただ、メガバンクはここ数年、採用数を減らし続けていたのだ。
なお、余談ではあるが、この10年間で2度、『半沢直樹』がドラマ化され社会現象となった。これがメガバンクの人気に影響を与えたかどうかは定かではない。むしろ、「ああはなりたくない」と思った学生がいないか、不安になってしまった。
学生の保護者の変化も、要因として考えられる。大学生の保護者は、今や就職氷河期世代になりつつある。ちょうど、銀行業界が相次ぐ経営統合を図っていたのを肌で感じてきた世代だ。
筆者が新卒で就職した1990年代半ばは、まだ、大学のOGがリクルーターとして「富士銀行へ来い」「お前は第一勧業銀行へ行くべきだ」と誘う機会もあった。しかし、その後、社会構造が変わりつつあると世間が気が付くようになってからは、メガバンクに対して、「安心」「信頼」「憧れ」とは逆の感情がわくようになったのではないか。
環境が変化しても必要不可欠な存在
メガバンクの求める人物像も変化した。近年、三度(みたび)の統廃合や再編がささやかれるなかでは、業界の環境も変化しつつある。
従来の窓口業務や営業だけではなく、これからの時代は、テクノロジーを活かせる技術や知恵を持つ人材がいっそう求められてくる。ただ、だからといって、銀行自体の存在意義が著しく低下するわけではない。
相手が個人にしろ法人にしろ、銀行の仕事は尊い。例えば、融資するかどうかを決めるのは、社会経済を円滑に進めるためには必要不可欠で、彼らがどの企業を残していくのかは日本の将来にもかかわる。
そして、就職先としての人気が低下したと言われても、いまだに何らかの理由で志望する学生もいる。過去のように誰もが憧れる職業ではないとしても、銀行業ならではの使命感や面白さもあるのだ。
例えば、就職してから法人営業を任されれば、担当する企業の財務状況などを見て世の中の仕組みを知ることができる。けっして、ドラマで大ブレイクした『半沢直樹』のように、耐えず派閥争いにさらされているわけでも、日常的に会食をしたり、土下座するわけではない。人や企業と共に栄えるのも彼らの本質的な役割だ。