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「男社会のお伽噺」から再び黄金期へ。「島耕作」は今こそ読むべき作品だ/常見陽平

暮らし

 本から学ぶことはたくさんある。日々を生きるビジネスパーソンにとって、読書はやはり身につけておきたい習慣だ。しかし、私たちに仕事の大切さを教えてくれるのは、自己啓発書やビジネス書ばかりではない。漫画からも、仕事の何たるかは学べる

漫画を読む男性

画像はイメージです

今後の日本社会を描く“島耕作”

 3月23日に人気シリーズ『相談役 島耕作』(モーニングKC、弘兼憲史)の最新巻(3巻)が出た。予約するほど待ち望んでいたし、配信と共に、ワクワクしながら電子書籍を読み終えた。

 島耕作シリーズは、連載32周年を迎えた人気漫画である。1983年スタートの『課長 島耕作』に始まり、会社内の出世競争やビジネスの最前線をリアルに描いてきた。しかし、ネットではたびたび「男社会のお伽噺漫画だ」と、批判の声も上がっていた。

 ただ、少なくとも最新巻について、筆者は「見事なまでに今後の日本社会を描いている」と感動した。今までの島耕作もちゃんと読んだら、必ずしも男の妄想実現漫画ではないことや、むしろビジネス雑誌の漫画版的なものであることに気づく。

企業や人の多様性が描かれている

相談役 島耕作

『相談役 島耕作(3)』(弘兼 憲史、講談社)

 最新刊を読むと少なくともよくある島耕作批判とはイメージが変わるはずだ。指名委員会等設置会社(事業側と経営側を分ける会社の仕組み)への移行が話題にのぼり、従来の役員たちが既得権益を失いたくないと反対勢力へ抵抗する姿も描かれ、最先端の企業現場を映す展開に心をつかまれてしまった。

 女性の活躍も進んでいる。凄腕のサックスプレイヤーとしても活躍する40代前半のTECOT(旧:初芝電器産業)の女性社長・風花凛子を、会長から相談役へ退いた島耕作が援護射撃する。新たな女性のリーダーに対して「若いけどやり過ぎる」と批判の声も上がる会社の内外で、なおも熱い展開が繰り広げられるのだ。

 既得権益と反対勢力の争いが続く中では、明らかに松下幸之助(パナソニック創業者)をイメージした創業者の時代からの同社を愛する株主も登場する。株式の委任状を求める凛子が、彼から「お願いするときは京都まで来い」と言われてからの展開は興味深い。京都で「サックスを吹いてるんだよな」「オレの前で吹いてくれへんか」と言われても、凛子は毅然として「お断りします」と突っぱねるのだ

 また、相談役である島耕作の秘書・三代稔彦も、まさしく今を映すキャラクターだ。彼は、コンサルティング会社出身の秀才だ。ゲイで作中では別の登場人物が「彼は女性に興味がありません」と話す場面もある。そんな彼が、ふとしたことから、自分にとって大切な人物に気づき……。とにかく、今どきの企業や家族の多様性のあり方を、各所に盛り込む作品となっている

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