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菅首相長男の接待報道、文春にタダ乗りする他メディアの情けなさ

ビジネス

 2月4日発売の『週刊文春』がスクープして以降、連日話題になっている菅義偉総理大臣の長男・正剛(せいごう)氏の総務省への接待報道。秘密裏に接待が行われた背景や、この騒動から見える歪んだ日本のメディアの実態とは?

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 東京大学中退の経歴で、明晰な頭脳を生かしマルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(43)の連載「時事問題に吠える!」では現代日本で起きている政治や社会の問題に斬り込む。

 今回は、この接待問題に関して、ダースレイダーが2回にわたり解説。まずは、その前編をお届けする(以下、ダースレイダーさんの寄稿)。

文春ばかり目立つ調査報道、他メディアは何してる?

 放送関連会社・東北新社に勤務する菅首相の長男・菅正剛氏の総務省への接待報道に関しては、いろいろな視点で報じられていて、どんどん新しい事実が出てきています。この騒動をスクープした『週刊文春』の、ネタの裏どりをしながら記事に仕上げていくという調査報道の凄さ、ジャーナリズムの能力が際立った件だったと、まず思います。

 本来、記者の数をふくめさまざまなリソースを持つ新聞報道が調査報道には向いていたはずですが、令和時代に入ってからは「文春」がほぼ独走状態で、さまざまな政治スキャンダルのスクープを調査報道に基づいて記事にしています

 接待問題に関して、文春がどこから取材を始めたかというのは、記事にも書いてありました。菅首相が誕生した時期にはすでに「東北新社に勤めている長男が総務省を接待する」という情報を掴んでいて、そこからずっと取材をし、さらにそこから遡った取材も始めていたんですね。

 あとは、いつ記事にして発表するかタイミングをはかりながらネタを仕上げていき、証拠となる音声データも録っている。総務省と正剛氏が会食をしている場に記者が張り込んで、周囲を取り囲んでメモ書きをしながら録音もしているという、ドラマのような取材手法を展開しました。

 さらに記事の出し方も、いろいろな情報を掴んでいるにもかかわらず、ちょっとずつ出していきます。記事に対して総務省の当該職員たちがどういった反応をするのか、菅首相がどういったことを言うのか見ていくためです。

「一部週刊誌」とボカして後追いするメディアは卑怯

週刊文春

接待問題を最初に報じた2021年2月4日発売『週刊文春』

 週刊誌は1週間ごとに新しい記事が出ますから、そのたびに彼らの反応を踏まえて記事を出すことによって、総務省の役人が「話していない」「記憶にない」と言った内容が次々と裏返っていく。読者の購買意欲をそそると同時に、国会での質疑の内容も次々と動いていきます。これがちゃんとした調査報道に基づくジャーナリズム、メディアの役割のひとつであるということが改めてわかりました。

 日本のメディアそれぞれがこうした調査報道をやっていくことで、世の中が面白くなる。僕はあえてこういう言い方をしますが、面白く、興味深くなっていくんだろうなと想像すると、文春だけがこれをやっているという状況に対して、日本のメディア各社はいったいどういう受け止め方をしているのか、非常に気になります。

 ちなみに僕があえて文春という名前を何度も言っているのは、文春報道が出た後に各紙が追っかけていろいろと記事を書いているんですが、気になるのは他の新聞や週刊誌の報道は固有名詞を出さずに「一部週刊誌報道によると」などという書き方をして、クレジットをちゃんと載せないということ。でも明らかに文春の取材能力、調査報道の功績ですよね。これをクレジットしたうえで、各社が独自の取材をしていくという順番を明らかにしたほうがいいと思います。

 卑怯ですよ、文春という名前を出さないのは。文春に限らず、いろんなスクープを出したメディアに他紙が乗っかったり追っかけるときに、固有名詞を出さないんですよね。こういった慣例を改めて見て、日本のメディア空間はいびつだということを、今回も強く感じました。

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