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ヴェネチア銀獅子賞の黒沢清監督「哀川翔さんが救いだった」不遇時代を語る

 カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭のひとつで、世界最古の歴史を持つ映画祭であるヴェネチア国際映画祭で、銀獅子賞(監督賞)を受賞した歴史ミステリー『スパイの妻<劇場版>』が公開になりました。

黒沢清

黒沢清監督

 主演に蒼井優さん、共演に高橋一生さんを迎えた本作の監督を務めたのは、『CURE』『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』などで国内外から高い評価を受けてきた黒沢清監督(65)

 太平洋戦争前夜の神戸を舞台に、恐ろしい国家機密を知ってしまったある夫婦の試練を見つめた本作で、初めて歴史ものに挑んだ黒沢監督。名匠と呼ばれる監督にかつて訪れたピンチや、若手への思いも聞きました。
 

「歴史もの」の物語は今へと繋がる

――いろいろな方向へ感情を揺さぶられました、ジャンル分けできない作品だと感じましたが、一般に注目されるのは黒沢監督が「歴史もの」を撮ったことですね。手がけてみて、なにか新しく感じたことはありましたか?

黒沢清監督(以下、黒沢):基本は一種のサスペンス、ミステリー、あるいはメロドラマの構造を持っているんですけど、どのジャンルであれ、普通は物語が終わればそこで終わるんです。しかし、この物語の舞台はある時代のなかであり、僕たちはそのあとの歴史がどうなるのか知っている。だから、登場人物がラストのあともどうなったのか気になる。現代まで繋がっているかもしれないわけです。

 そうしたこともあり、どこでどのように物語を終わらせるのか、非常に迷いました。歴史ものというのは、どこで終わらせるかというのが、ひとつのものすごく大きなポイントになるのだと感じましたね。

――詳しくは書けませんが、ラストに示された“ヒロインの行動”。あれによって、また観客の受け止め方が変わります。

黒沢:あれこそ迷った部分です。あの部分は脚本にはなく、撮っているときにも考えていなかったんです。ただ撮りながらも、自分で作っておきながら、主人公の聡子を「可哀そうだな。どうにか救えないかな」と思っていました。それで、編集の段階になって、ああした提示をしました。

――今に繋がる歴史を生きたキャラクターだからこそ、これまでの作品以上に監督自身が、キャラクターのその後を考えたんですね。

黒沢:いやでも気になってしまいましたね。それがこうした歴史を背景にした物語のひとつの特徴なのかなと思いました。

可能性に演出をプラスした軍服の色

スパイの妻

『スパイの妻<劇場版>』 (C) 2020 NHK, NEP, Incline, C&I

――衣装や建物など、細かい時代考証をされたと思いますが、あえてここは、フィクションである映画として嘘をつくことを選んだといった箇所はありますか?

黒沢:あからさまな嘘はついていません。ただ、可能性を探ったうえでした選択はあります。たとえば東出(昌大)さんたち憲兵が着ている軍服。当時の資料はモノクロなので、何色なのかは分からないんです。

 ただ、戦後のカラー映画に出てくる、いわゆるカーキ色の軍服が、何となくみなさんの脳裏に焼き付いている。あれがあの時代の憲兵の色だと思い込んでいるわけです。でも、調べてみると、実は統一した色というのは意外となかった。今回、あえてみなさんがよく知っている憲兵の服の色よりも少しブルーがかった冷たい色にしました。

――憲兵の冷たさを感じるように。

黒沢:そうです。それなりに非情な集団なので。ただ、それは嘘をついたというよりも、そういう可能性もあったなかでの選択です。

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