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俳優・坂東龍汰の流儀「地方の撮影ではホテルを飛び出しまちを歩く」理由

テレビドラマや映画に立て続けに出演し大活躍の俳優・坂東龍汰さん。来年は、主演を務める舞台〈う蝕〉にも立つ。

現在は、2つの出演映画が公開中で、青森県弘前市を舞台に、バカ塗り(津軽塗の愛称)の職人を目指す女性・美也子(堀田真由)と、家族の姿を見つめた〈バカ塗りの娘〉が9月1日に封切られたばかりだ。坂東さんは、美也子の兄で美容師のユウを演じる(もう1作は、ボクサーを演じた〈春に散る〉)。

そんな坂東さんご本人は、ニュージーランド留学を高校時代に経験し、上京する前には(北海道出身)、お金をためる目的で住み込みでアルバイトをした経歴を持つ。

「人に興味がある」と語り、見知らぬ場所で人の輪に積極的に入っていくバイタリティあふれる坂東さんには、映画の現場で心掛ける流儀はあるのだろうか? ライターの望月ふみが聞いた。

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繊細な音や会話のトーンは映画館でしか体験できない

―― 本題に入る前に、出来上がった作品をご覧になった時の印象を教えてください。とてもステキな空気感の作品でした。

坂東龍汰(以下、坂東):思っていた以上に流れがゆっくりでした。でも、全く間延びしていない。

職人の父(小林薫)とその娘が淡々と漆器を作っていくファーストシーンのインパクトがすごく印象的で、1つの音を聞いた瞬間に一気に作品世界に引き込まれました。

そこからずっと、その空気感のまま、最後まで観続けられました。この映画に呼んでいただいて、お芝居させていただけてとてもうれしいです。

―― ドラマや映画を1.5倍速で観るような時代の中で際立つ作品ですね。

坂東:今って、エンタメ作品が、エンタメ、エンタメしすぎているというか。効果音もたくさんついていたり、説明的なセリフが多かったり、分かりやすくという方向になってきています。展開も早いです。

そんな中〈バカ塗りの娘〉が映画館で上映されます。テレビでも、携帯でもない、映画館で観るべき作品だと心から思いますので、とてもうれしいです。

〈ミッション:インポッシブル〉みたいなザ・エンタメ映画も映画館で観るべきだと思うんです。でも、それらとはまた全然違った良さがこうした映画にもある。繊細な音や会話のトーンは映画館でしか体験できないと思います。

それぞれに違う顔を丁寧に演じていけたらなと思いました

―― もう少し、映画について聞かせてください。主人公の美也子は、父や祖父の姿を見て、自分も津軽塗の職人になろうとする女性です。一方の坂東さんは、美容師として外へ出て行く選択をする彼女の兄・ユウを演じました。

坂東:ユウというキャラクターをいただいた時、本来のユウの姿と素の僕とは、共通点が多いという印象を受けました。

映画の前半では、お父さんとの関係がだいぶギクシャクしていて、本音で話し合えない状況にありますけど、美也子についてはすごく気に掛けています。

お父さんと居る時のユウと、美也子と話している時のユウ、そして恋人の尚人(宮田俊哉)と居る時のユウ、それぞれに違う顔を丁寧に演じていけたらなと思いました。

―― 父と美也子の下に、尚人を連れてきた中盤での4人のシーンは物語でも肝になる重要な場面でした。

坂東:あそこはみんな集中していました。普段は、待ち時間とかでも、映画のままの空気がずっと流れていて心地の良い現場でしたが、あのシーンの撮影日だけは口数が減ってましたね(笑)

終わってから薫さんも「結構ヘビーな撮影だったね~」と言ってました。

弘前のお店のカウンターに地元の人が居ると思ったら「でき上がった」薫さんだった

―― 弘前での現場では、坂東さんがムードメーカーだったと聞いています。

坂東:いや、薫さんだと思います。明るくしようとか、そういうんじゃないんです。でも、そこに居てくださるだけで面白くなるというか。お芝居している時以外はずっとしゃべっているんです(笑)

―― 役柄とのギャップがかなりあります。

坂東:すごいギャップです。ギャップ萌えでした(笑)撮影が終わってぶらっと入った弘前のお店のカウンターに地元の人が居ると思ったら、かなりでき上がった状態の薫さんで(笑)そのままふたりで一緒に飲んだりとか。本当に、父ちゃんって感じがしました。

―― そうした地元のお店では、地元の方との交流もあったんですか?

坂東:ありましたよ。「あそこのそば屋はおいしいよ」とか「ここは行った方がいいよ」とか。地元の方たちといろいろお話をして教えていただいたんです。

なので、クランクアップしてから自分で車を借りていろんな場所に行ったりしました。すごく楽しかったです。

基本的には今も、人と話したいと思っています

―― 坂東さんは、高校時代に海外留学されていたり、芸能界に入る前に住み込みで働かれたりする経験もあると聞きます。見知らぬ場所でも人の輪に容易に入っていけますか?

坂東:昔は、すごく得意で、そればっかりしてました。海外に行った時も、自分からめちゃくちゃ話し掛けまくって、とにかく「いろんな人を知りたい!」と人に興味がありすぎの少年でした。

基本的には今も、人と話したいと思っています。どこにいてもその場に自然に溶け込んでいるような人、芸能界とか、表の世界に出ていても、その匂いを感じさせない人を特に好きになっちゃいますね。

―― 例えば、小林薫さんのような。

坂東:そうですね。ステキだなって思います。本当に地元の人かと思って最初、気づきませんでした。なじみすぎていて(笑)

薫さんが飲んでいるようにも見えるし、役のお父さんが飲んでいるようにも見える。本当に、シームレスなんですよね。

弘前で撮るからこそ意味がある

坂東:あと、こういう作品は、弘前で撮るからこそ意味があると思うんです。

―― やはりそこは違いますか?

坂東:僕は、意味が生まれてくると思っています。ずっとホテルにいて出歩かないという選択肢もあると思います。でも僕は、地方で撮影をする時には率先して、その土地のものを食べたり、いろんな人と話したり、居酒屋に行ったりするよう心掛けています。

―― その土地で撮影し、地元の人との触れ合って、その土地の暮らしを感じるからこそ、冒頭でもお話したようなすてきな空気感が映画に出てくるのですね。

家族の物語も、弘前の空気も美しく映し出された作品だと思います。最後に、ユウとして注目してもらいたい映画のシーンを教えてください。

坂東:やっぱり、最後です。一番、本質的なユウが見えるシーンにしたかったので。美也子の津軽塗のピアノに、本当に感動しています。

純粋に何かを見て美しいと思う気持ちには、お芝居でもうそがあってはいけないと思ったので、あそこは、僕自身の気持ちを開放しました。

鶴岡(慧子)監督の映画はこれまでに何本も観させていただいています。今回ご一緒できて非常にうれしかったです。

[映画のあらすじ]

「私、漆続ける」その挑戦が家族と向き合うことを教えてくれた――
青木家は津軽塗職人の父・清史郎と、スーパーで働きながら父の仕事を手伝う娘・美也子の二人暮らし。家族より仕事を優先し続けた清史郎に母は愛想を尽かせて出ていき、家業を継がないと決めた兄は自由に生きる道を選んだ。美也子は津軽塗に興味を持ちながらも父に継ぎたいことを堂々と言えず、不器用な清史郎は津軽塗で生きていくことは簡単じゃないと美也子を突き放す。それでも周囲の反対を押し切る美也子。その挑戦が、バラバラになった家族の気持ちを動かしていく――。

[クレジット]

堀田真由/坂東龍汰 宮田俊哉 片岡礼子 酒向 芳 松金よね子 篠井英介 鈴木正幸 ジョナゴールド 王林/木野 花 坂本長利/小林 薫
監督:鶴岡慧子 脚本:鶴岡慧子 小嶋健作 
原作:髙森美由紀「ジャパン・ディグニティ」(産業編集センター刊) 
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023「バカ塗りの娘」製作委員会
●公式サイト:https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/ 
●公式Twitter/Instagram:@bakanuri_movie

映画『バカ塗りの娘』は全国公開中
(C) 2023「バカ塗りの娘」製作委員会

ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異
Twitter:@mochi_fumi

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