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いきなりステーキ、“お願い文”でも危うい経営は「転落企業の典型」だった

ビジネス

 売り上げ不振や赤字転落というニュースを目にする「いきなり!ステーキ」を展開する株式会社ペッパーフードサービス(以降、ペッパーフード)。

いきなりステーキ

いきなり!ステーキ銀座四丁目店 CC BY 3.0 (撮影/多摩に暇人)

 2019年12月には店頭に貼られた、創業者である一瀬邦夫社長の「このままではお近くの店を閉めることになります」「ぜひ皆様のご来店を心よりお待ちしております」という“お願い文”、さらに年明け1月13日に貼られた「ワイルドステーキですが、時々硬いとお叱りを受けておりました」「一番の人気ステーキを柔らかくて美味しいと言って頂けます様努力してまいります」という“謝罪文”も話題である同社。

 しかし、財務はかなり早いスピードで悪化し、債務超過のリスクに瀕しています。

 数々の経営改革・企業再建を担ってきた筆者が、「いきなり!ステーキ」経営悪化の背景を、財務諸表の「現金残高急減」「銀行借入額急増」「新株予約権での資本調達」というキーワードから読み解きます。

ペッパーフードは「転落企業の典型」

 2019年のペッパーフードの決算情報を見ると、急速に悪化した財務状況を借入や株式発行でしのごうとしているのがわかります。以下に、ペッパーフードの四半期ごとの「財務ニュース」を筆者なりにまとめました。

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ペッパーフード財務ニュース(2019年)

Ⅰ.(1~3月)事業の成長が止まる「=売上頭打ち、営業利益が急速縮小」
Ⅱ.(4~6月)会社の現金残高が半年前の半分まで減少「=現金残高が急速縮小」
Ⅲ.(7~9月)事業運営のために必要な資金(現金)を補てん「=銀行借り入れ実施」
Ⅳ.(10~12月)銀行借入が大きくなりすぎたため、解消を試みる「=新株予約権を発行」

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 事業運営に必要な現金が枯渇しだした同社は、まず銀行からの借入を増やします。しかし、自己資本比率が5%という通常の企業ではあまり見られない異常事態に陥ったため、新株予約権を発行し、株式発行による資金調達を目論みます。

 この新株予約権は、全株式の約20%相当にもおよぶ、かなり大規模なものです。業績が悪化→現金が枯渇→金融機関からの借入を増やすというのは、ピンチの企業に見られる典型です。資金調達のため、社内でかなり大きな意思決定があったのでしょう。

営業利益の急速悪化が現金残高を急落させた

 損益計算書上では黒字の状態でも倒産してしまう「黒字倒産」という言葉があるように、企業にとって事業を運営するために必要な現金(キャッシュ)の確保は、とても大切なことです。黒字の会社でさえ、現金残高が減り続ければ倒産してしまいます。

 ペッパーフードのように営業利益が赤字の企業においては、事業継続にむけた現金の確保が急務となります。

ペッパーフード

四半期ごとに売上高拡大を実現(図版/筆者作成)

 ペッパーフードでは2017年以降、「店舗拡大戦略」のもと、四半期ごとに売上を拡大してきました。しかし、売上高は、2018年12月期に185億円(四半期ベース)で頭打ちになると、2019年1月以降は、減少へと転換しつつあります。

「本業の営業で儲けた利益をそのまま店舗拡大の再投資に回す」という典型的なチェーン店拡大戦略を続けてきたペッパーフードは、ひとたび売上高が減少すると、店舗投資による減価償却費や、その他運営費用が重くのしかかり、致命的な営業利益の減少をもたらします。

 つまりペッパーフードは事業拡大し続けなければ、すぐに経営悪化に転落するビジネス戦略をとっていたのです。2019年11月の決算で、業績不振に陥った要因を「自社ブランド同士による競合」と発表したのは、なんとも皮肉なことです。

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