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無償化制度も大学院生は対象外「生活ができません」学生のホンネ

学び

「必要最低限の生活しかできない」のが実情

 学内では院生向けに、研究の間をぬって働けるアルバイトも用意されている。しかし、面接の通過率は5割程度。残りの学生は研究費のみで生活しなければならない。

「研究に追われる院生は、限られた収入の中から家賃、光熱費、食費といった生活費をやりくりしなくてはならないので、手当の少ない研究費では『必要最低限の生活しかできない』という話も聞きます」

 加えて、ちひろさんの大学院では企業に研究発表を行い、共同開発が認められた時点で支給額が決まる。

「金銭関係ではいつも、苦しさと理不尽さを感じています」と語るのが本音のようだ。

「院に進まなければよかった」

文部科学省

旧文部省庁舎 photo by Wiiii CC BY 3.0

 院生の困窮するアルバイト・研究費事情。ちひろさんは「『研究の成果に対して金銭的な対価が見合っていない』というのが院生共通の本音じゃないか」とも言う。

「なにより私自身、研究開発を『仕事』として誇りを持ってやっています。私達の研究がそのまま企業の利益に直結するので。これはおそらく、他の大学院生も抱えている想いなんじゃないかなと思います。ただその一方で、研究費の兼ね合いで困窮している友達を多く見ていると、自分たちの立場が軽んじられていると言いますか……。私達の想いが届いていないのかなと感じてしまいます。

 大学からそのまま就職した同期は、相応の給料をもらって同じように研究開発を進めているので、得られる学歴と天秤にかけても『院に進まないで就職しておけばよかった』と思うことがしばしあります」

 近年、大学院生の進学率の減少や学力低下が話題に上がるようになったが、今回の事例のように、学生が研究に専念しきれない環境が蔓延していることも原因のひとつだろう。

研究に専念できる環境づくりを

 文科省はサイト上の「高等教育の修学支援新制度に係る質問と回答」において、大学院生が高等教育の無償化に含まれないことについて「短期大学や2年制の専門学校を卒業した者では20歳以上で就労し、一定の稼得能力がある者がいることを踏まえれば、こうした者とのバランスを考える必要がある」と説明している。

 しかし実際には、今回の事例のように就職の機会を削ってでも最高学位の取得に励む学生も少なくない。現在の制度では、こういった大学院生たちを支えきれていないのが現実だ。

「私たち大学院生が、金銭的な負担を抱えずに研究に専念できるときが来ればいいなと、心からそう思ってます」とちひろさんは言う。

<TEXT/モチヅキサトシ>

bizSPA!取材班のライター。音楽と鉄道と銭湯が好き

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