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ゲーム対戦=eスポーツが興行として成立する理由。大手企業も注目

ビジネス

eスポーツへの広告予算を投じるメリット

――企業がeスポーツに予算を投じるのには、どういうメリットがあるのでしょうか?

但木:人々の興味が分散化しているなかでも、ゲームには常に一定数のお客さんがいますし、とくに若い年齢層へのリーチ力が最大のメリットだと思います。そういう環境で、eスポーツシーンを支えている企業であるとアピールすることは、自社のブランド力向上につながります。

――これまでのeスポーツ広告のなかで、非常に効果的だったと思える事例はありますか?

但木:eスポーツ広告の成功例を紹介すると、世界最大規模のeスポーツイベントである「Intel Extreme Masters(以下IEM)」にスポンサーとして参加したDHLという運送会社の例があります。

 IEMでは大会中にスポンサー紹介動画が流れるのですが、DHLの動画が流れたあとに観客がスタンディングオベーションをする、というシーンがありました。

――なぜスタンディングオベーションを……?

但木:DHLの動画は運送会社として自社をアピールするもので、大会を実施するための機材を運んでいる、というような内容です。つまり「裏方としてこの大会を支えています」というメッセージになっているんです。それに対して、観客は感謝の意味を込めてスタンディングオベーションで応えたということです。

 このように「ゲームシーンを支えている」というメッセージをつければ、食品業界でも飲料業界でも、どんな業界でもお客さんの心を動かすブランディングができるでしょう。

自社商品を“ゲーマー向け”とブランディング

Intel Extreme Masters

Intel Extreme Masters at CeBIT 2009 ◎Coaster J CC BY 3.0

――ただ広告を出すだけではなく、チームやコミュニティとの一体感を出したほうが良いという点は他のプロスポーツと同じですね。一般的な広告以外に、企業がeスポーツを通じて自社をアピールする方法はありますか?

但木:広告以外の手段としては、最近では「ゲーミング」という方法があります。

 たとえば大手家具量販店のIKEAは、eスポーツ・コンピューターゲーム向けの家具を展開しています。これは「eスポーツをするための最適なデスクやチェア、家具」という風に自社の商品をブランディングする手法です。自社製品を「ゲーマー向けである」とブランディングすることで、ゲームやeスポーツを愛するお客さんへのアピールにつながります。

 ほかにも健康食品やエナジードリンクなどでも、たとえば「ゲーマー向け栄養補給食品」といった風にブランディングできるはずです。さらに、インターネットプロバイダーサービスのように、他社との差別化要因が乏しくて価格競争に陥りがちな分野でも、「ゲーミング」という風にブランディングをすることで、あらたな客層を開拓できる可能性があります。

――「ゲーム専用○○」とうたうことで、ゲーム好きに注目してもらえるんですね。

但木:これは企業からの広告ではありませんが、プロゲームチーム「野良連合」の選手には、大会でブドウ糖を補給するためにラムネを頻繁に食べるという習慣がありました。

 それが視聴者のあいだで話題になり、野良連合といえばラムネ、ゲーマーといえばラムネという感じになり、ゲーマー御用達の食べ物としてラムネが注目されています。

「憧れのプロゲーマーが愛用しているもの」としてブランディングをすれば、多くの視聴者にかっこいい・自分も欲しい、と思ってもらえるんですよね。このようなブランディングも、次の段階の企業広告としてありえると思います。

<取材・文/伊藤将史>

但木一真
ゲーム/eスポーツ業界アナリスト。Esportsの会・eスポーツラボ管理人。『1億3000万人のためのeスポーツ入門』編著。

1986年生まれ。神奈川県出身のフリーライター。最新のテクノロジーやビジネス、流行しているものなど、興味があるジャンルの記事を幅広く執筆しています。

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