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電通社員・34歳が監督した映画が評判。「しんどい仕事も映画の修行になった」

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「自分の純度を高めればいい」映画祭受賞が自信に

WALZ

© 2019“WE ARE LITTLE ZOMBIES”FILM PARTNERS

――初の物語演出でサンダンスを受賞したと。

長久:そのときは自分が正しいものを作りたいという一心でした。他人の評価は知らないけれど、とにかく自分がいいと思うものを作る。サンダンスももちろんコネも何もありませんでした。完成してから半年くらい、世界中の映画祭に応募していたんです。

 でも、どこにも引っ掛かからなくて、「あぁ、自分の好きなものを作って、これで終わりなんだな」と思っていたら、サンダンスから連絡がきた。本当に全部観てるんだとビックリしましたね。

――コンペに選ばれましたよと。

長久:それだけでビックリでした。そこで初めて人目に触れる上映をしていただきましたし、舞台挨拶もあったので行こうと。授賞式のときには、まさか獲れるわけないと思っていたので、後ろのバーのビリヤード台でみんなでキャッキャしていたら『Goldfish』って呼ばれて。「うそでしょー!」って(笑)。

――本作も審査員特別賞のほか、ベルリン国際映画祭スペシャル・メンション賞(準グランプリ)、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭最優秀男優賞受賞)を受賞しました。賞のことを考えて作られてはいなかったでしょうけれど。

長久:ただ『金魚』で自分が純粋に正しいと思っているものを評価していただいたので、狙うとかではなく、自分の純度を高めることが間違いではないのだと思いながら作れました。

辛い仕事も経験値に。ダメならシフトチェンジ

長久允監督

――『金魚』を作られたのがちょうど30歳くらいのときだと思いますが、20代の社会人に、20代はどう過ごしたほうがいいといったアドバイスはありますか?

長久:僕自身、映画を撮れるとは思っていませんでした。でも何か辛いことがあっても、これは修行だと思っていました。たとえば店頭ビデオでステーキの焼き方をスローモーションで延々と撮っているときも、スローモーションの勉強になるなと。しんどい仕事でも、1つ1つに学びがあって、貯めた経験値が、何をきっかけに使えるか分からない。辛いことも修行だと思えるなら、やったほうがいいです。

 ただ、そう思えないならシフトチェンジしたほうがいい。別にやりたいと思えることが明確に浮かんだときにはすぐにそっちをやったほうがいいです。それから疑問に思うことは言ったほうがいいし、言えない環境は悪だから、逃げたり変えたりしたほうがいいと思います。

――最後に、読者に本作公開へのメッセージをお願いします。

長久:池松壮亮くんが演じている望月を軸に観ると、実はサラリーマンムービーとして楽しむこともできます。ずるさを覚えたり、上手くやることを覚えた者たちが、それでも上手くいかなかったり悩んだりするさまが描かれていたり、それに対するピュアな子どもたちの姿も描かれる。失ったものも見つけられる映画になっているかなと思います。

<取材・文・撮影/望月ふみ>

ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異
Twitter:@mochi_fumi

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