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カナダの注目女優が語る、若者が自分を見失う理由「目標は見つけるものではない」

暮らし

仕事で迷ったときは別のことをやってみる

――実際に女優の仕事を始めて「想像していたのと違う」なんて思ったことはなかったのでしょうか?

カレル:一般的に子供たちは学校を通して、「どんな職業につきたいのか」「人生で何を成し遂げたいのか」を発見していくと思うんです。私の場合は、その前に自分の道を見つけてしまったんですが、あるとき、「女優なんかじゃなくて、もっと現実的な仕事に就いたほうがいいのかも」という迷いを感じたことがあって、レストランの厨房で働いてみたりしました。やってみたらどうしても好きになれなくて、すぐに辞めてしまいましたが(笑)。

 女優を目指した当初は映画に出演したかったんですが、ケベックで演技のキャリアをスタートするにはテレビから始めるのが一般的なんです。でも、自分の演技に消化不良のまま進んでいくスピードの速いテレビの撮影に、私はどうしてもなじめなかった。それでも、テレビの仕事を続けていくうちに映画のオファーが来るようになり、自分の好きなことがやっと、少しずつやれるようになりました。

将来の夢や目標は“見つける”ものではない

宣材写真

――若いうちから、自分のやりたいことと、やりたくないことがはっきり分かっていたカレルさんが育った背景には、まずは“個を確立する”というカナダの文化もあると思います。反対に日本では、個を確立する前に他者を優先してしまう文化もあります。こういった文化のなかでは、自分のやりたいことを見つけるのが難しいかもしれません。

カレル:「将来何をしたいか?」という問いかけそのものが私は間違っていると思うんです。「何かを見つけなければいけない」というプレッシャーに私たちは小さな頃からさらされています。でもね、私たちは何者にもなれるんですよ!

 人は誰でも素晴らしい可能性に満ちているのに、自分の“直感”を信じるよりもプレッシャーに負けて、将来の仕事を“見つけなければいけない”と思い込まされる……。将来や目標って“見つける”ものではないと思うんですよね。ここに、若者が自分を見失ってしまう理由があるように感じます。

シンデレラ・ストーリーとは一線を画す成長物語

本編抜き1

――レオニーとスティーヴの恋人のような、親子のような曖昧な関係はとても象徴的です。

カレル:2人の性格はとても正反対。レオニーはエネルギーいっぱいだからこそ、将来について悩み、もがいています。一方、スティーヴは野心もないし、自分の小さな世界に幸せを見出している。2人は自分にないものをお互いのなかに見つけて、ある意味、お互いから学びあっています。

 恋愛にいたらなくても2人は十分に、自分が不足している部分を補う関係なんではないでしょうか。そういった男女関係もアリですよね。

――女の子が年上の男性との恋愛から学び、成長するというハリウッド型の成長物語とは一線を画しているところが本作の素晴らしい点だと思います。特にラストシーンにこの点は表現されていますが、カレルさんにとって本作のユニークな点はどういうところでしょうか?

カレル:第一に、シーンとはミスマッチのような意外性のある音楽が使われているところ。あるときはヒッチコックのような、あるときはディズニー映画のような音楽が、絶対に合わないと思われるシーンで使われています。第二に、都会を舞台にした映画が多いなかで、平凡な田舎町を舞台にた平凡な若者を主役に据えているところ。ドラマチックな展開はないのですが、観客に様々な問いかけをする。そんなところをぜひ皆さんにも感じてもらえればと思います。

<取材・文/此花さくや>

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など多数Twitter:@sakuya_kono、Instagram:@wakakonohana

【公開情報】
さよなら、退屈なレオニー』は6月15日から新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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