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誰もが依存症になるリスクを抱えている。ソーシャルワーカーに聞く治療法

暮らし

誰もが依存症になるリスクと隣り合わせ

――では、何をもって回復といえるのでしょうか。

斉藤:端的に言うと自己責任ではなく回復責任について考えてみたいと思います。依存症になった責任はあなたにはないが、そこから回復する責任はある。回復責任というのはキーワードです。そして回復におけるポイントは孤立から、社会内に依存先を増やすことです。

 依存症全般にいえることなのですが、依存症になるとみんな孤立してしまうんですよね。その魔力に圧倒されて周囲がみんな離れていく。

 アルコールがわかりやすくて、職場の飲み会とかでも問題飲酒者がいると周りの態度が冷たくなりますよね。でも本人はブラックアウトしていて、記憶がないわけだから気づかない。翌日周囲の反応が更に冷たくなり、メールやラインの返信もこない。こうやって人が離れていくんですね。どんどん孤立していきます。

 回復とは、孤立した状態から関係性を再構築することです。小児科医でご自身は脳性麻痺の当事者である熊谷晋一郎先生は「自立とは依存先を増やすこと、希望とは絶望を分かち合うこと」と仰っていますけど、これが依存症からの回復のキーワードだと思います。

 専門病院やクリニック、自助グループもそうだし、社会の中に依存先を増やすこと、いろいろなつながりを取り戻していくことが回復のポイントです。

「ソーシャルワーカー」がいなくなった

Alcoholism

――日本社会におけるソーシャルワーカーや依存症を取り巻く今後の課題というとどんなところでしょうか。

斉藤:国家資格を習得して働いている人は増えていますよ。ただ、有資格者が増えただけで「ソーシャルワーカー」がいなくなりましたね。どういう意味かは現場で働いている人たちにも考えてもらいたいです。私自身も自問自答しています。

 アメリカだとソーシャルワーカーは弁護士や医者と同じ、またはそれ以上の社会的地位が認められています。一方、日本だと認知度も社会的地位もまだまだ低いのが現状です。

 依存症に関しては、芸能人の薬物乱用をはじめ深刻な社会問題として取り上げられるようになりましたね。依存症は習慣の病であり、ライフサイクル病でありストレスへの対処行動という側面があります。仕事上がりにみんなでお酒を飲むという習慣がいい例ですね。

 アルコールの場合は、飲み続けると耐性ができて量が増えていきます。世の中にお酒を飲む人は多いし、そういった意味では誰もが依存症になりうる可能性はあります。非常に身近な問題なので多くの人に知って欲しいところです。

<取材・文/石井通之>

斉藤章佳
1979年生まれ。精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アルコール依存症を中心に薬物・ギャンブル・性犯罪・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床。著書に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(イースト・プレス)など

元エロ本編集者。高校卒業後、クリエイティブな分野に憧れて美術大学を目指すも、センスと根気のなさゆえに挫折。大学卒業後、就職した風俗雑誌の編集部でキャリアをスタートさせる。イベントレポートとインタビューが得意(似顔絵イラスト/koya)

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