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増え続ける日本のHIV感染率。アートとダンスで伝える実情と課題

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キース・ヘリングの作品と魂に触れる啓発イベント

 中村キース・へリング美術館は、館長である中村和男氏が1987年から蒐集を始めたヘリング作品130点からなり、単に作品を保管・展示するだけでなく、美術館という空間体験を通じてキースの思考や人生、彼が活躍した時代に想いをめぐらせることをコンセプトにしています。

 イベントは、所蔵作品と館内のコンセプトを説明するギャラリーツアー、エイズをめぐる現状に関する講演、キースの生涯を言葉とダンスで表現するショーパフォーマンスという構成で行われました。

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NYスタイル・ポエトリーリーディングを行う、辻しのぶさん(左)、田辺日太さん(右)

 大団円となるパフォーマンスは“メモリーズ・オブ・キース・ヘリング”と題され、ダンサーの長島裕輔さんをキース・ヘリング役に見たて、キース本人や親族、友人の証言をもとにストーリーを構築。田辺日太さんと辻しのぶさんによる朗読を織り交ぜたものです。

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キース・ヘリングの作品世界をパフォーマンスで表現

 長島さんは、今回のパフォーマンスを考案するにあたり、眼鏡にパーカーといういで立ちでキース本人に外見を寄せることに加えて、制作風景、作品上の人物の動きを徹底研究。コンテポラリーダンスとキースの作風をリンクさせ、規則的で幾何学的な動きのダンスによって、その作品世界を表現しました。

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今回のパフォーマンスの主役ともいえる長島裕輔さん

「キースの作品を観ると、人物のポージング的な形が印象的でした。同様のニュアンスを踊りに取り入れることで、作品世界をイメージできるようにしました。キースになり切るにあたっていくつか文献を調べましたけど、アーティストとしての功績よりも、僕の中で等身大の人物像が見えてきたんですよね。実は、普通の人だったんじゃないか、というのが僕の解釈なんですけど、だからこそ自然に演じることができたのかも知れません」(長島さん)

正しい認識と理解は今なお課題?

 今回のイベントを主催したヴィンテージ・エイジング・クラブは、2016年12月12日に設立したNPO法人です。これまでも、シニア世代が中心となり、さまざまなテーマの旅行やイベント、ワークショップ、講演会、読書会などといった活動を行ってきました。

 イベント主催者で同法人のメンバーである延江浩さんはエイズを取り巻く実情と課題についてこう話します。

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イベントを主催したNPO法人ヴィンテージエイジングクラブの延江浩さん

「キース・へリングと世界エイズデーにちなむイベントは2回目になります。現在は研究も進み、投薬によってエイズの発症を抑えられるようになりました。一方で、HIV感染率に関していうと、アジアで日本が唯一右肩上がりで増えているという事実はあまり知られていません」

 昔に比べてメディアがエイズを取り上げることが少なってきたことも原因だそうです。

「非常に危機感を覚えるところです。感染者の多くは検査に行かなかったり、批判や偏見を恐れてか、周囲に打ち明けられず自分で抱え込んでしまう。彼らのためにも支援センターやサポートグループの存在を広めていくのが我々のすべき動きだと考えています」(延江さん)

 現在は“死なない病気”となったエイズですが、その発症の原因となるHIVの脅威はいまだに身近なところにあります。

 決して他人事ではない、自分自身にも身近な人にも起こりうるという認識を持つことが必要ですし、それは今も昔も変わらない課題なのかも知れません。

<取材・文・撮影/石井通之>

元エロ本編集者。高校卒業後、クリエイティブな分野に憧れて美術大学を目指すも、センスと根気のなさゆえに挫折。大学卒業後、就職した風俗雑誌の編集部でキャリアをスタートさせる。イベントレポートとインタビューが得意(似顔絵イラスト/koya)

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