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新卒者のハラスメント事件簿。専門家が見た新人が加害者になる事例集

ビジネス, 学び

新入社員のハラスメントと言うと、新入社員が被害者を想像する。しかし、先輩や上司から見た「暴走行為」によって先輩や上司が困る、言い換えると、新入社員がハラスメントの加害者になっている可能性もあるのだ。

そこで今回は、ハラスメント専門家である一般社団法人日本ハラスメント協会の代表理事・村嵜要さんに、新入社員のハラスメント事例を教えてもらった。

もちろん、自分の行動を新入社員が気にしすぎてしまえば、新人の良さが消えてしまう。

しかし、バランス感覚も求められる社会生活の中で新入社員が、加害者の側に無自覚に回っていないか、振り返っても悪くはないはずだ(以下、村嵜要さん寄稿)。

何かにつけて「ハラスメントだ」と主張するハラスメント

ハラスメントは、立場が上の人がするイメージを持っている人が多いと思う。同時に、下の立場からのハラスメントは成立しないと誤解している人が居るかもしれない。

しかし、それは大きな間違いだ。下の立場の人からもハラスメントは成立する。下の者が新卒者であってもハラスメントは成立する。

まず、深刻なケースで言えば「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」がある。「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」とは、何かにつけて「ハラスメントだ」と主張する行為をさす。

自分が気に入らない出来事は全て、ハラスメントと主張するのだ。

筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会に人事担当者から実際に寄せられた相談事例を紹介する。

うつ状態と記載された診断書を新卒者が会社に出したため、会社としては休職を提案した。しかし、新卒者は拒否し、仕事の継続を希望した。

会社側は許可するも、複数の会社からクレームや問い合わせが相次ぎ、通常の対応ができていないと発覚した。

そこで、会社の側から休職命令を出すと「SOS、私の命を助けてください」と全部署の上長宛にメールを送信していたと分かった。

その人事担当者は、

「休職者やうつ状態にある社員と面談する際には、1つでも気に入らないことがあると、ハラスメントと言われかねません。人によっては新卒者も『ハラハラ』をする傾向があるので似たような恐怖があります」

と本音を明かしてくれた。もちろん新卒者が、ハラスメントを実際に受けているケースもあるので一概には言えない。

今の20代は、ハラスメントに詳しく、年長者よりも敏感な世代であると筆者は感じている。しかし、敏感だからこそ起きてしまう「ハラハラ」というハラスメントがある。

無視できないハラスメント種類の1つであると、新卒者も自覚しておきたい。

以下には、新卒者に「ハラハラ」されたという先輩・上司の実際の声を紹介する。

・ミスを指摘しただけで別の上司にすぐ、ハラスメントされたと相談に行く。新卒者が女性の場合、別の部署の上司はそれを信じてしまう傾向がある。あることないこと怒られて理不尽だ。これは逆パワハラだ。

・「報連相」を守らない。確認すると「何回聞くんですか?」と逆ギレされた

・少し部下を叱責してしまったが、その近くにいた新卒の別の子がおびえて休職してしまった

・ハラスメントのチェックを常にされているように感じる

・注意ができなくなった。今では、なめられる上司になってしまった

・職人が背中を見て覚えるような「見て学べ」は一切通用しない時代になった

・メモを取らない、メモを取ってなかったのに同じことを2回目も3回も聞いてくる。かといって「メモを取りなさい」とは言えない

・女性営業担当者がド派手なネイルで客先に行った。上司が注意したら「セクハラですよ」と言い返していた

・ミスを指摘した翌日「辞表」と書いた封筒をお守りのように自分の机に置き、無言のメッセージで圧を掛ける

・部署のグループLINEで上司への悪口「老害の言うことは聞き流しましょう」⇒上司は精神が不安定になり休職へ

新卒者にとっては常識の範囲と考える行動が「暴走行為」に

「ハラハラ」のような攻撃的な行為ではなくても、新卒者にとっては常識の範囲と考える無意識の行動が、先輩や上司には「暴走行為」に見えるケースもある。その場合、先輩や上司に対し、ある種の不快感や不利益を与えている可能性がある。

例えば「暴走行為」によるハラスメントとして実際に相談を受けた事例は以下のようなケースがある。

・「今日休みます」と理由を言わず、無関係の部署も入る全従業員のメーリングリストにいきなり送信

・社会保険等の天引きを知らずに「給料25万円と聞いていたのに21万円になっている、詐欺です」と人事部に電話

・学歴でマウントをとってくる。「先輩はどこの大学ですか? 俺は慶應です」など

・部署のグループLINEのメッセージで新卒の女性がLINEのスタンプだけで会話を展開しようとする。「了解です」「ありがとう」「えーん(泣く)」など。先輩や上司は困惑

・新卒者と出先で移動中、何の断りもなく彼氏からの電話を取り、堂々と不要の通話

・社内恋愛(自由意志)で別れた途端、セクハラでホテルに連れ込まれたと腹いせに相談窓口に通報

・大型連休は交代で休日をとる慣習になっているが「海外旅行の予定を入れてしまったので変更できません。駄目ならキャンセル料払ってもらえるんですか?」と言ってきた

これらの事例は、新卒者の側にとって、何の悪気もない可能性がある。

社会ルールや慣習の中で長らくもまれてきた先輩や上司にとっては「変化球」にも見えるこれらのコミュニケーションに、先輩や上司の側があたふたしているかもしれない。

その可能性について新卒者の側も、傷付ける、困らせる意図がないのであれば、あらためて意識的になってもいいのかもしれない。

一方で、先輩や上司の側も「ハラハラ」を恐れて、コミュニケーションを極端に避けるようになってしまうと問題だ。過去の相談事例の中で、

・女性従業員とは一切しゃべらないにしている。飲み会の席でも近づかない。

・笑いを取りにいく会話は失言もあるので怖くてできなくなった

と語った人も居た。しかし、極端なコミュニケーション回避は、パワハラの一種である「人間関係の切り離し」に該当する可能性がある。避けた行動がかえってパワハラになる可能性がある。

先輩や上司の側も冷静な対応が求められる。好きなタイプ・苦手なタイプは双方にもちろんある。過度に恐れる必要はない。あくまで自然体、平等の心掛けが大切だ。

[文/村嵜要]

1983年、大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。
Twitter:@murasaki_kaname

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