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佐藤二朗が振り返る“20代の暗黒期”「リクルートを1日で辞めたのはアホだった」

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 俳優としてはもちろんのこと、今や司会業などでも人気の佐藤二朗さん(52)。自身の演劇ユニット「ちからわざ」で2009年に初演した舞台を、脚本・監督・出演した映画『はるヲうるひと』が公開中です。

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佐藤二朗さん

 舞台版で自身が演じた役を山田孝之さんに託した佐藤さん。山田さん、そして同じく映画版で参加の仲里依紗さんにオファーした理由と、独自の芝居論を聞きました。

 また、就職したり養成所でうまくいかなかったりと「暗黒時代」と語る20代のころについても直撃。長く同棲していたという奥サマとの秘話も。

山田孝之は日本最高レベルの俳優

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(C) 2020「はるヲうるひと」製作委員会

――この物語を執筆した、そもそものきっかけは何だったのでしょう。

佐藤二朗(以下、佐藤):置屋の点在する島が実際にあることを知ったことがひとつ。あと、追い込まれたり何かを抱えたりしている人が、明日も生きていこうと思える話に、個人的にグッとくるんです。最後すごく何かいいことが起きるとかではなくて、相変わらず鬱屈としているんだけど、それでも生きていこうかという姿がいいです。

 それで閉ざされた島の売春宿で、抑圧されている女性たちの話を書いてみようとなりました。あとはコメディとかコミカルな印象が強いワタクシなものですから、違うところもあるんだぞというのを出したいというのもモチベーションのひとつでしたかね。

――映画版で、佐藤さん演じる売春宿を仕切る長男に使われている次男役で、主演を務める山田孝之さんと、長年持病で臥せっている妹を演じた仲里依紗さんに声をかけたのは?

佐藤:山田孝之は、言ってしまえば日本最高レベルの俳優だと僕は思っています。仲里依紗も同世代では断トツクラスの女優だと思います。そんな2人に、あまりイメージにない役をやってほしいと思いました。

 孝之はそれこそいろんな役をやってきていますが、今回のような本当に箸にも棒にもかからず、頭も悪くて泣き虫で、どうしようもないチンピラをやってほしかった。里依紗ちゃんにも、捨て鉢になっていて、大きな内圧を抱えていて、いつ死んでもおかしくないような追い詰められた里依紗ちゃんを見てみたくてオファーしました。

僕が下手くそだったんでしょうね

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――山田さん、仲さん、それぞれが感情を爆発させて独白するシーンが、とても胸に来ました。

佐藤:モニター越しに芝居を見ていて、役者って本当にすごいと思ったし、自分がカメラの前に立つのが怖くなるくらいでしたよ。

 演出家さんやプロデューサーさんの中には、「俳優って、すぐ熱演したがるんだよね。なにもしなくていいのに」と言う人がいます。それは正しい。全く正しい。そして本当にその方がいい作品、その方がいい役もたくさんありますし、「なにもしない」で、「ただそこに居る」ということが出来る俳優は凄く良い俳優だと思います。

「なにもしない」ことには、とんでもない熱量というかセンスや感性が必要になってくると思うからです。ただ僕は、人が魂かなにかに触れた状態といいますか、魂が震えるような状況に置かれた俳優の顔や姿や芝居が見たいし、演じたい。魂が揺れた状態を演じられなくて何が俳優よという思いがある。

――佐藤さんも実際に言われたことがあるのですか?

佐藤:あります、あります(笑)。「なにもしなくていいよ」とは結構何度か言われた気がします。ひどい時には「普通の人間でやってくれ」って言われたこともあります(笑)。よほど変なことをやったんでしょうね。反省してます。

 ただ僕は昔から、常に作品全体のテイストや色合いと照らし合わせて、その作品の一部として、作品の底上げというか、作品のクオリティを上げることになると信じてやってきたつもりなんですが、監督に通じなかったということは、僕の目論みが外れてたというか、僕が下手くそだったんでしょうね、きっと。

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