三菱UFJ銀行「新卒年収1000万円」報道を見て、私が「遅い」と感じたワケ/常見陽平
2021年3月、メガバンクの三菱UFJ銀行が、2022年入社の新卒採用から新たな給与制度を導入すると発表した。大卒1年目から1000万円超の年収になる可能性もある。このニュースに対しては、ネット上でもさまざまな議論が交わされていた。私個人は、率直に「遅い」という印象を受けた。
就職市場の人気低下が背景か
日本国内の金融機関だけを比較すれば、三菱UFJ銀行の新たな給与制度は画期的にも思える。ただ、外資系企業をはじめ、国内企業でも他業種では、2010年代後半から新卒かどうかを問わず高い給与を与えていた会社はあった。
例えば、実力主義をうたう会社であれば、優秀な営業担当者は新卒1年目の段階で高給取りになれる可能性もある。IT企業も専門職であるエンジニアを中心に、入社1年目から年収1000万円を超えるケースはあった。
しかし、メガバンクは、他の業種に比べると出遅れていた印象がある。それでも、なぜ今のタイミングで三菱UFJ銀行が動いたのか。背景には、就職市場における銀行の人気低迷が挙げられる。
筆者の記憶をたどると、少なくともバブルの余波を引きずっていた平成初期から、平成中期においても、銀行は人気の就職先だった。平成元年(1989年)頃は、日本がODA(政府開発援助)の支出額で世界1位になるほどの時代だった。当時の世界における時価総額ランキングをみると、国内の都市銀行が上位を占めていた。
平成元年の同ランキングでは、ベストテン以内に日本企業が7社(NTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、三菱銀行、東京電力)入っており、そのうちの5社は日本の銀行だった。
メガバンクの求人数は減少傾向に
かげりが見え始めたのは、2000年前後からである。当時、バブル期から残る不良債権処理に悩む銀行業界は、経営難を乗り切る意味も含めて再編が行われた。
その後、2000年代半ばには、空前の売り手市場となり、金融機関、なかでもメガバンクが大量採用を行ったために、人気を呼んだ時期はあった。2010年代へ入ると、第2次安倍内閣の経済政策により株価が回復した一方で、就職市場が学生たち優位の“売り手市場”になり、IT企業など他業種へ人材が流れていった。
メガバンクの求人数においても変化がみられた。新卒採用市場が売り手市場化していく中で、メガバンクの求人数は2016年をピークに減少に向かうというという動きを見せたのだ。
フィンテック(金融と技術の融合)などを強化しつつも、支店の統廃合などをすすめる動きを見せた。ゼロ金利政策が財務を圧迫したのも要因と考えられる。一方、理系人材の採用を強化するようになったのだが、彼ら・彼女たちは必ずしもメガバンクに憧れるわけではなかったのだ。