世界一“星”の多い東京。知られざる「ミシュランガイド」調査員の実態から上陸15年間の変遷まで担当に聞く
東京が世界一星の多い美食の街と呼ばれる理由
こうしたなか、ミシュランガイドの本場・パリよりも星の数が多いのが東京だ。なぜ、東京には星に輝く飲食店やレストランが世界で一番多く点在しているのか。
「日本の経済の中心地であり、世界中から人や文化が集まってくるのが大きい」
そう話す本城氏は、東京が美食の街と呼ばれる理由についてこのように説明する。
「江戸の伝統的な食文化がありつつも、常に時代とともにいろんな刺激を受けながら進化を重ね、食通やグルメ好きを魅力してきたのが要因として挙げられるでしょう。一方料理人も、東京でお店を開いて名声を得たいという目標のもと、国内外で何年も修行した腕利きの職人が集まっていて、非常に料理のレベルが高くなっています。
また、日本の食材は世界から見ても高く評価されていて、海外のシェフからも日本食の文化とともに注目を集めている。このような複合的な要素が重なって、結果的に東京を世界一の美食の街に押し上げたと思っています」
1位東京、3位に京都、そして4位に大阪
さらに興味深いのは、ミシュランガイドの星が多い国ランキングTOP5を見ると、1位の東京に続き、3位に京都、そして4位には大阪がランクインしており、日本の都市は世界に類を見ないほど“美食”があふれているのだ。
「京都も東京と同様に、歴史的な背景がありながら、時代とともに京料理が進化し、今もなお多くの人に愛されています。大阪も昔から『天下の台所』と呼ばれ、全国からさまざまな食材が集まり、独自の食文化を作ってきた歴史があるなかで、時代とともに食の多様化が進み、魅力的なお店が増えている。このような日本ならではの食文化はもとより、日本の特徴として『特定の食カテゴリーに特化している』のも、星やビブグルマンに選ばれるお店が多い所以だと考えています」
うどん、うなぎ、おでん、おにぎり、焼鳥、天ぷら、すき焼き、とんかつ、カレー、ラーメン……。
「ミシュランガイド東京2023」 に掲載されている食ジャンルは35カテゴリーにも上り、これは世界の都市と比べても稀有な状況だという。
ひとつの食ジャンルを極め、追求する日本の職人気質が美食を生み出しているのではないだろうか。
コロナ禍を経てビブグルマンのお店が増えている
その一方で、コロナ禍で多くの飲食店は難局に立たされてしまったわけだが、直近におけるミシェランガイド掲載店の変化やトレンドについて、本城氏に伺うと「ビブグルマンのお店が増加している」と語る。
「コロナ禍でさまざまな制約を強いられるなかでも、営業時間の工夫や新メニューの研究、設備のリニューアル、生産者の開拓など、多くの飲食店がいろんな挑戦をしていました。そのたゆまない努力が実を結び、『ミシュランガイド東京2023』は従前と比べてもビブグルマンのお店が増えているというポジティブな成果につながっているんです」
2023年4月には書籍とは別に「ミシュランガイド公式アプリ」をリリース。
デジタル化に伴い、これまで年に一度の公開だった調査員おすすめのレストランの最新情報が、タイムリーに把握できるようになった。
「情報の鮮度はもちろん、検索機能や予約機能、お店の位置情報をスマートフォンで確認できる利便性も、モバイルアプリの大きなメリットになっています。また、自分の行きたいお店を選び、マイリストを作れる機能もあり、『普段使いのお店』と『ハレの日に合うお店』と使い分けることもできるため、ミシェランガイドに興味を持つユーザーを増やしていければと思っています」(本城氏)
ゆくゆくは、日本全国をカバーしたミシェランガイドを作るのを目標に掲げているそうだ。
東京、京都・大阪、奈良に続き、次にミシェランガイドが発表されるエリアはどこなのか。
まだ知らない、新たな美食に出会えるのを心待ちにしていたい。
<取材・文・撮影/古田島大介>
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