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“業界初”を連発。量もスーパー、味もスーパー、センスもスーパーを意識した「エースコック」の商品開発

ビジネス

エースコック株式会社 マーケティング部 商品開発グループの長尾 昌輝氏

コンビニやスーパーに並ぶインスタントラーメン(即席麺)の数々。
各メーカーが趣向を凝らし、パッケージやフレーバーを考え、世に送り出す。

陳列棚には多種多様な商品が並び、しのぎを削っているような状況なわけだが、大型カップ麺の先駆者として知られるのがエースコックの「スーパーカップ1.5倍」だ。

1988年に発売以来、35年間にわたってロングセラーを続けてきた。

今年6月には、絶大な人気を誇るアーティスト「YOASOBI」とのコラボも実現させ、大きな話題となった。

エースコック株式会社 マーケティング部 商品開発グループの長尾 昌輝氏にスーパーカップが長年愛されているワケやYOASOBIコラボのきっかけについて話を伺った。

食べ盛りの若者に向けた「麺量90g」のカップ麺を開発

「スーパーカップ 1.5倍」が誕生した1988年当時は、まだ大盛りカップ麺の商品がなく、麺量が60gの商品が一般的だった。

しかし、エースコックの社長・村岡寛氏は「カップ麺を食べる食べ盛りの若年層に、麺量60gでは物足りないのでは」と考え、試しに若者向けのブラインド調査を実施したという。

その結果、麺量60gよりも麺量90gの方がちょうど良いという結果が出て、そこから「カップ麺の麺量を通常の1.5倍に増量」するアイデアが生まれた。

「スーパーカップ 1.5倍という商品名にある“1.5”は、麺量が60gから90gに増えたことに由来しています。1988年に同商品を発売したところ、『これが俺たちの定番』という立ち位置の商品として知られるようになり、男性層を中心に支持されていったんです」(長尾氏)

その後、俳優の風間 杜夫さんを起用した「スーパーカップにはわけがある」と銘打ったCMで放送し、知名度も全国区に広がっていく。

また、1990年代のコンビニが流行り始めた時期とも重なり、スーパーカップのメインターゲット層だった若者とのブランド接点も作ることができ、購買に結びついていったそうだ。

時代に合わせて変化させる「麺」へのこだわり

その一方、他の即席麺メーカーも多様な商品を次々と市場へ投入し、攻勢をかけてくるわけだが、どのような形で差別化を図ってきたのか。

長尾氏は「麺へのこだわりに力を入れている」と語る。

「麺の美味しさはもちろん、食べごたえ抜群のカップ麺を追及し、『食事としての満足感を届けたい』という思いから、時代に合わせて、ブラッシュアップし続けています」

2000年後半に「極太麺のつけ麺ブーム」が到来したときは、麺の断面を立体的に見せ、噛みごたえやがっしり感を意識した「3Dめん」を採用した。

続く2014年には、「3Dめん」をさらにブラッシュアップし、角の立った食感や弾力性のある噛みごたえを意識した「カドメン」を開発。

エッジを効かせた麺の特長を引き立て、常にスーパーカップが新しいことに挑戦していく姿勢を見せてきたのだ。

現在の麺は、2020年にリニューアルされた「THE のどごし麺」で、淡麗系ラーメンのようなするっと滑らかな食感を意識しているという。

居酒屋のメニューから着想を得た「豚キムチ」が不動の人気商品に

こうしたなか、スーパーカップの人気を不動にしたヒット商品が1993年に発売した「豚キムチ」味だった。

「スーパーカップ1.5倍 新・豚キムチラーメン」


「(コンビニ限定)スーパーカップ 1.5倍 ブタキムラーメン」

その頃の即席麺には豚キムチという味がなく、画期的な商品だったことから人気に火がついた。

「当時の担当者が、居酒屋で豚キムチ炒めを食べた際に『この味をラーメンにできないか』と考え、それが豚キムチ味の生まれた経緯になります。そのアイデアを商品化するために、豚とキムチを炒めたような調理感や香りを、どのようにラーメンへ落とし込むかの工夫を重ねてきました。現在でも不動の定番となっており、未だにリニューアルが走る際は開発担当者の間で、多くの議論を重ねています」

商品開発のアイデアは、商品企画や開発に携わる担当者のたゆまぬ味の研究や、食に対する感度の高さからきているという。

長尾氏自身も、年間100杯以上のラーメンを食べ歩き、メモを書き溜めていた時期があったとか。

「開発担当者に味を伝える際に、具体的なラーメン店の名前や味のイメージを伝えると、自分が思った通りの味が再現されやすいんです。そのため、食以外でもさまざまな流行にアンテナを張り、商品開発に活かせそうなものがあれば、取り入れていく姿勢を大切にしています」

社長曰く、新商品開発は「やりすぎくらいがちょうどいい」という考えがあり、気鋭のアイデアをどんどん具現化させることができるわけである。

「量もスーパー、味もスーパー、センスもスーパー」を意識した商品開発

長尾氏が開発を担当した「キャンプ飯」も、コロナ禍でブームに拍車がかかったキャンプから着想を得たという。

「スーパーカップ1.5倍 キャンプ飯 牛だしカレーラーメン」

「今のトレンドは何か、どんなものが流行っているのかを常に意識しながら、商品開発におけるアイデアの種を探しています。『キャンプ飯』については、キャンパーの間で流行っていたスバイスをイメージし取り入れました。『エースコック、わかっているね』と言われるくらい、味の開発には人一倍の努力を心がけています」

「スーパーカップ1.5倍 ギョーザパンチラーメン」

昔から、スーパーカップは「量もスーパー、味もスーパー、センスもスーパー」を体現した商品を数多く販売してきたからこそ、他社がやらない“攻めた”商品開発が可能なのだろう。

これまで数百種類以上の商品を発売してきたなかで反響があったのが、2015年に発売した「ギョーザパンチラーメン」だ。

ラーメンと餃子を一緒に注文する機会が多いことをヒントに、「口のなかでラーメンと餃子が混ざり合う味」を再現。

直近10年間では類を見ない爆発的な販売数を記録し、いっときレギュラー商品として販売されるほどの伝説的商品だったそうだ。

YOASOBIとのコラボ実現。「ブランド35周年を機に話題喚起を狙いたかった」

そのほか、スーパーカップは著名人や音楽アーティストとのコラボも行っている。
2022年11月には人気お笑いコンビがプロデュースした商品を販売した。

そして、2023年はブランド35周年を記念し、積極的なコラボ戦略を展開している。
まず4月には有名飲食店監修の「ソースカレーラーメン」を発売し、好評を得ることに成功。

その後、発売したのがYOASOBIコラボの商品だった。

YOASOBI×スーパーカップ1.5倍の商品。写真左から「電光石火のごま香るホッと幸せ塩とんこつラーメン」、「電光石火のにんにく香るビリッとやみつき旨辛醤油ラーメン」

過去にも人気アーティストとコラボし、「1日で完売するくらいの売れ行きを見せ、根強いファンの人気を実感した」という経験から、若年層を中心に大人気のYOASOBIのコラボができないか考えたという。

「スーパーカップ35周年のタイミングで、コラボ企画を通してブランドをより知ってもらうためには、ひとつ大きな山を作りたいと考えていました。そのようななかで、YOASOBIさんとコラボした商品を作るという話になったんです」

長尾氏は、YOASOBIの二人に対して「こういう味が作れる」という味の一覧を提案し、かやくや麺、具材などを丁寧に説明することを心がけたとのこと。

「私自身、今回はメニューを一切考えず、YOASOBIさんに全て考えてもらいました。ikuraさんは塩とんこつラーメン、Ayaseさんには旨辛醤油ラーメンを考案してもらったんですが、お二人の“ラーメン愛”が溢れてやまない開発となりました」

苦労した点は、パッケージのビジュアルデザインだったという。


プレゼントキャンペーン賞品「サイン入りパッケージポスター 」の写真

「YOASOBIさん側の意向を聞きつつも、小売先でいかに味が想像でき、かつお客様から手に取ってもらうかを調整していくのは時間がかかりましたね。単独アリーナツアー『YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”』のデザインを生かしながら、ラーメンとしての魅力をどう訴求していくかを、かなり模索しながら落としどころを考えていきました」

今後も「秋以降はこれまでの2つとは全く異なるジャンルのコラボを企画している」と長尾氏は周年にかける熱意を語る。

面白いアイデアを実際に商品化し、どんなものでもラーメンの味にしてしまう
スーパーカップの商品開発には目を見張るものがあった。今後のさらなる発展に期待したい。

<取材・文・撮影/古田島大介>

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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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