ネットで不評の渋沢栄一1万円札。実は「日本の凄い技術」が詰まっていた
渋沢の採用は印刷技術の向上が寄与
そのほか、コピー機やスキャナーでは潰れてしまうほど細かい字のマイクロ文字、紫外線を当てることで文字が浮かび上がる特殊発光インキといった技術も使われています。日本の紙幣は紙を原料にしていますが、ポリマー製の紙幣が流通している国もあります。これは海外の製紙技術や印刷技術が優れているから、ではありません。
日本の紙幣は印刷されてから約2年で回収されて、新しい紙幣へと生まれ変わります。回収、そして新しく紙幣を印刷し、再流通するにはコストがかかります。約2年という流通期間は非常に短いのですが、サイクルを短くすることで紙幣が破損したり汚れたりといったアクシデントを防ぐことができます。それは、偽造防止にも寄与しています。
ポリマー製の紙幣は丈夫であることがメリットですが、その分だけ回収・再生のサイクルが長くなります。日本のように物流インフラが整い、あちこちに銀行やATMといった紙幣を回収できる窓口や機械が設置されているような国ばかりではありません。そうした国では、できるだけ長く使用することを想定して丈夫なポリマー製の紙幣にしています。
渋沢栄一の1万円札は2024年から使用開始が予定されていますが、実は以前から紙幣に渋沢の肖像を使うことが議論されてきました。B券の1000円札は伊藤博文でしたが、そのときは渋沢も最終候補に残っていました。2024年に登場予定のF券は渋沢の古希祝いのときに撮影された写真が使用されますが、試作されたB券1000円札には、それとは異なる渋沢の肖像が使われています。
渋沢の肖像はヒゲがなかったこともあって不採用になりました。2024年の新紙幣に渋沢が採用されるのは、ひとえに印刷技術の向上が寄与しているともいえます。
<TEXT/小川裕夫>