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若手3人で作った映画会社A24が、10年たらずでアカデミー賞連発。どこが凄いのか

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ブラッド・ピット率いる独立系製作会社とタッグ

 では今回のアカデミー賞の6部門でノミネートされた『ミナリ』は、どのような経緯で作られたのであろうか。

 プロデューサーにはブラッド・ピット率いる「(監督に)作りたい映画を作らせる」ことを目的に2002年に設立された映画製作会社PLAN Bの共同代表であり、『それでも夜は明ける』(‘13)、『ムーンライト』(’18)でアカデミー賞を受賞したデデ・ガードナー、同じくPLAN B共同代表のジェレミー・クライナー、同社所属のクリスティーナ・オーが名を連ねている。

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 PLAN BもA24と同じく、いわゆるハリウッド映画とは一線を画し、エンタメ作品から差別・政治経済問題を扱った社会派作品を作り続け、アカデミー賞の常連となった注目のインディペンデント系製作会社である。

 最近はバラク・オバマ元大統領が絶賛した『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(‘19)が日本でも話題になったことが記憶に新しい。要するに『ミナリ』は気鋭の製作会社2社がタッグを組んでスタートした作品であり、この時点で「良い作品でない訳がない」と期待感が高まる作品なのである。

 また、脚本は韓国系移民2世のリー・アイザック・チョン監督自身に手によって書かれているが、アイザック監督は、このストーリーが両親への感謝の手紙となった半自伝的脚本であると語っている。厄介な側面も含めて家族というものが自分にとっていかに大切かを幼い娘に語り継ぎたいと強く感じた時に、本作を着想したのだという。

監督自身の半生を映したミナリ

ミナリ

Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

 アーカンソーで両親が激しい口喧嘩をしたこと、父親のもとで働いていた男性が十字架を引きずって街を歩いたこと、祖母のせいで農場の半分近くが焼けてしまったことなど、娘と同じ年の時に経験した出来事を思い出して脚本作りを始めたとのことだが、実際にこれらのエピソードは映画のストーリーの核の部分になっている

 そして、アメリカ文学から強く影響を受けたというアイザック監督は、アメリカ南部を舞台にした小説で知られるフラナリー・オコナーや農村で育ったウィラ・キャザーの作品を参考に脚本を完成させた。そしてその脚本にPLAN Bのクリスティーナ・オーが惚れ込み、A24とのタッグが決まったところから企画は発進したのだった。

 また、『ミナリ』は小津安二郎監督の空間設計やスティーブン・スピルバーグ監督の西部劇の荒野の映像や子供の精神の表現方法も参考にして、アイザック監督がラクラン・ミルン撮影監督と入念な話し合いを重ねた上で、撮られたという。

 アメリカの広大な自然をバックに日常の細やかな機微が綴られているが、そのコントラストが見事だ。それも2人が撮影方法にこだわった結果であろう。

『ミナリ』は韓国系の移民の人たちの姿を描いているが、その本質はどの世界の人たちの心の中にある普遍的な「家族の姿」を伝えている点にあると感じた。誰もが生きていくことに必死な分、摩擦も生じてしまう。しかし、それでも家族として生きていく。その「家族の本当の姿」をこの作品は描いているのだ。

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