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パワハラ対策は国語辞典で? 面白くて変な会社の新提案とは<働き方ヘン革>

ビジネス

 政府が推進する働き方改革。ハラスメント防止や、多様なワークスタイルを選択できる社会のために、さまざまな取り組みを行う企業が増えてきています。

 しかし一方で、いまだに違法な長時間労働やパワハラが常態化したブラック企業も数多く存在し、20代ビジネスマンが頭を悩ませています。

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 そこで、「ブラック企業体験イベント」や「わたなべとおるかな」など、斬新な企画力をもって世の中をあっと驚かせるコンテンツ制作会社「株式会社人間」から身長186cmの大型新人・岡シャニカマ@SHANIKAMA_hrkt)が、持ち前の企画力で様々な専門家の抱える課題を解決していく新連載がスタート。

 アルバイト時代に企画した“失われた有給を供養する”イベント「有給浄化」は『とくダネ!』(フジテレビ)でも取り上げられた。そんな実力派の若手アイデアマンはどんな企画を繰り出すのか…。

■ 人間の1000本プランナー・岡シャニカマ

岡シャニカマ

1995年生まれ、人間の1000本プランナー。新卒でアカツキに入社。19年に株式会社人間へアルバイト採用され、「有給浄化」など数々の案件で企画・ディレクションを担当。入社試験では「人間島流し」と称して佐渡島へ渡り、10日間で1000企画作った

“ブラック企業アナリスト”から企画依頼

 今回、働き方に関する課題を持ってきてくださったのは、ブラック企業アナリストの新田龍さん。数多くのブラック企業トラブル解決や企業の改善に従事する傍ら、様々なメディアや講演で情報発信をされています。

 いわば働き方改革の第一人者。そんな方がわざわざ「働き方」に関してズブの素人であるシャニカマに相談を持ちかけます。よほどお困りなのでしょう。今回のテーマは「働き方改革」でもよく議題にあがる「パワハラ」についてなんだとか。

■ ブラック企業アナリスト・新田龍

新田龍

働き方改革総合研究所株式会社代表取締役、働き方改革コンサルタント。労働環境改善支援とブラック企業相手のこじれたトラブル解決が専門。各種メディアで労働問題・ブラック企業問題についてコメントし、優良企業は顕彰する。ブラック企業ランキングワースト企業出身、厚労省プロジェクト推進委員

Q.「パワハラ」に対して新しいアプローチができないか?


新田龍(以下、新田):「パワハラ」が全然なくならなくて困ってるんです。実は「パワハラ」って、もう20年くらい前からずっと問題だと言われ続けてるのに、いまだに罰則規定もないし、当初から防止法ってあまり変わってないんです。

 例えば経営トップが「パワハラをやめましょう!」と宣言したり、パワハラ防止のための講習会を開いたり、社内ルールを決めたり、通報窓口をつくったり。

 それで一定の改善が見込めることも事実なのですが、会社がどれだけ制度を整えても、やっぱりパワハラをやる人はやるんですよ。だからいまだに大きな問題として取り沙汰されるんですよね。

 人間さんとは「ブラック企業体験イベント」で楽しく協業できましたが、ああいう斬新な解決策がまだまだ求められていると思うんです。何か「新しいパワハラ対策」を企画してもらえませんでしょうか?

No.001:暴言上司が部下に伝わる言葉を索引する『上下辞典』


岡シャニカマ:新田さんからいただいたお題に関して自分なりに考えてみました。まずは普通に「パワハラを無くそう」という観点で企画したものをひとつ。

上下辞典

 パワハラ上司の典型として「暴言を吐く」というものがありますが、この上司たちは“暴言しか伝え方を知らない”というボキャブラリーの問題を抱えているのではないでしょうか。

 そこで考えたのが「上司が言おうとした暴言」を「部下に伝わる言葉」に言い換えられるよう索引できる国語辞典『上下辞典』です。

 例えば「使えないやつだな!」という暴言を索引すると、「もっと期待しちゃうな」「君ならここまで出来るようになると信じている」など素敵な言い換えが出てきます。

上下辞典

 いかがでしょうか?

『上下辞典』
新田さん評価:★★★★☆


新田:これは非常に良い視点ですね! パワハラは「無意識の犯罪」だと私も呼んでいるのですが、上司は無意識のうちに言葉遣いを誤り、結果的にパワハラになってしまうケースが多々あります。なので私もハラスメント防止研修では、このように「思わず口をついて出そうな暴言」を「部下が受け取りやすい『励まし』と『促し』」に翻訳するワークを実際にやってるんですよ。

 ただ、そんな「無意識パワハラ上司」に限って、肝心の研修に出てこないんですよね……。

 彼らにこそ聞いてもらいたいのに… 実際多忙な現場で、頭に血が上りやすい上司がいちいち索引するかというと、ちょっと現実的に厳しいかもしれません……。

No.002:厳しい指摘をやわらげる『期待するポストイット』


岡シャニカマ:さて、私はここで少し視点を変えて「パワハラはなくならない」という前提に立って“人を変えよう”とするのではなく“仕組みで軽減しよう”とする方法を考えてみました。

 だって織田信長だって明智光秀にパワハラしていたから謀反にあったわけですし、それだけ長い間DNAに刻まれた性質は簡単に変えられないと考えたためです。

 だからこそ“人を変えよう”とするのではなく、“仕組みで軽減しよう”とする方法を考えました。

期待するポストイット

 どうしても暴言を吐いて部下を感情任せに罵ってしまう上司はいると思います。そんな上司が最終的にどんな罵声を浴びせていても「期待している」という大前提だけを伝えられるようにするのがこの「期待するポストイット」です。

 この「期待してるから」という言葉は魔法のような言葉で、この言葉に続けて言えばどんなに厳しいフィードバックも飲み込みやすくなります。「良薬は口に苦し」と言いますが、部下を成長させるためには時折厳しい指摘も必要ですよね。このポストイットはそんな厳しい指摘も飲み込みやすくなる、まさにフィードバック界の「おくすりのめたね」と言えるでしょう。

 上司は厳しい指摘をした最後に、その要点をこのポストイットに書いて手渡すだけで部下は指示を受入れることができ、上司自身も「期待しているから」という前提を再認識できます。

 いかがでしょうか?

『期待するポストイット』
新田さん評価:★★★☆☆


新田:まさに「コロンブスの卵」的発想の、今日から使えるアイデアですね! たしかに、「お前はもっとできるはずだ!」という気持ちが高まるあまり、指導が厳しくなってしまうことってよくありますし、それは相手に期待している水準が高いからこそですもんね。

 また、そういう熱血上司に限って言葉足らずで、肝心の「期待してるからこそ」の説明が抜けてしまうことが多いですから、このアイデアは画期的だし実用的だと思います。

 ただ問題は、このツールが便利すぎるあまり、「(期待してるから)サービス残業しろ!」とか、「(期待してるから)今からお前を殴る!」みたいに、パワハラを正当化するために使う不届者が出てきてしまうんじゃないかと心配です。

 渡された側も「…まあ、期待されてるしいいか…」と受け容れてしまったりしたらもう無法地帯ですよね…。

No.003:厳しさ耐性を階級で分ける『パワハラ階級制度』

パワハラ階級制度


岡シャニカマ:そもそも語気が荒い人や、言葉遣いの汚い人はいます。そういった人たちは、そんな環境で育ってきているのでそれが「当たり前」なんです。しかし、若い人が総じて言葉遣いが綺麗で品行方正かというと、そうでもありません。

 そこで厳しく多少手荒にしか教育できない上司と、多少手荒に教えてもらった方がやりやすいという部下をマッチングさせるサーベイがあればいいのではないでしょうか。厳しさや乱暴さの階級を心理学をベースにしたサーベイで導き出し、その観点で相性が良い人同士を同じチームに配置すればパワハラ問題も軽減されるかもしれません。

 いかがでしょうか?

『パワハラ階級制度』
新田さん評価:★★★★★


新田:これは素晴らしい! ぜひすぐに開発してもらって、クライアントに即刻導入してもらいたいですよ。やはり、いくら指導方法やコミュニケーションの研修をしたところで、人との関わり方にはその人なりのスタイルがありますから根本的には変わるのは難しいものです。

 だったら、相性が合った人同士が組んだほうが生産性は高くなりますよね。実際、サラリーマン時代の部下にもいました。

「オレ、詰められて伸びるタイプなんで厳しくしごいてください!!」とか言ってて実際に厳しく接してたら、そいつから私の上司に「新田さんがすごく詰めてくる」と苦情行ってましたからね。詰められたいんじゃなかったのかよ。

新田氏の総評「上司の不完全性を肯定した建設的なアイデアだった」


新田:いただいた企画をみているうちに、我々は上司に完全性を求めすぎていると感じました。

 世の中の多くのパワハラ防止策は「パワハラはダメ! 撲滅しよう!」「上司はコミュニケーションに配慮しよう!」という前提でおこなわれてますが、実際のパワハラは「上司ー部下」「先輩ー後輩」間だけではなく、「同僚同士」や「部から上司に対して」という形でも発生します。

 またパワハラ自体、「そもそもなくならないもの」「起こるもの」という前提で、どう対処するか考えるべきでしょうね。パワハラは上司や先輩だけの問題ではなく、「組織の問題」として取り組むことが必要でしょう。

総括:「スターウォーズ」はパワハラの反面教師


岡シャニカマ:今回やってみて一番驚いたのは新田さん自身も「パワハラは完全には無くならない」という点に関して理解を示してくださったことです。

 お題放棄とも捉えられるので、もしかするとあの太い腕で張り倒されるのでは? と内心ヒヤヒヤしていました。

 ただ、今になって思えばこの「上司がパワハラしてしまう」という問題は映画『スターウォーズ』でも散々語られていることです。強大なパワーを持ってしまったアナキンが暗黒面に落ち、その力にまかせて宇宙を暴力で支配しようとしてしまう。ダースベーダーがやっているのはまさに宇宙規模のパワハラです。

 いつか上司になるかもしれない私を含め若い人たち。我々には「今の自分はジェダイか? 暗黒面か?」と自問自答して、パワーの使い道を正しく判断できる指標が必要なのかもしれません。そう考えると社員研修で「スターウォーズ」を活用するのは必然かもしれません。

<TEXT/岡シャニカマ>

1995年生まれ、人間の1000本プランナー。新卒でアカツキに入社。19年に株式会社人間へアルバイト採用され、「有給浄化」など数々の案件で企画・ディレクションを担当。入社試験では「人間島流し」と称して佐渡島へ渡り、10日間で1000企画作った

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