世界一“星”の多い東京。知られざる「ミシュランガイド」調査員の実態から上陸15年間の変遷まで担当に聞く
ミシュランガイドに欠かせない「調査員」。知られざる正体とは?
また、ミシュランガイドを語る上で外せないのが「調査員」の存在だ。
一般客と同様にレストランに出向き、飲食代を支払い、サービスを受ける。そして、先に挙げた料理の基準で評価し、レポートを書く。
一切、身分を明かさず、謎のベールに包まれた調査員は“孤高の存在”でありつつ、ミシュランガイドの制作にもっとも重要な役割を担っている。
「調査員の詳細については、事業部でも明かされていないことも多い」と語る本城氏は、知られざる調査員の実態を次のように説明する。
「調査員はミシュランの正社員として、フルタイムで仕事に携わっています。ミシェランガイドの信念を理解し、独自の評価基準のもとで評価する専門的な知識とスキルを身につけるためにフランス本国での研修を受け、実地を積んでいきながら調査員としてデビューするわけですが、詳細については、私でさえも把握していない“門外不出”の内容になっています」
1日2食、週に10食
ひとつ言えることは、「想像以上に調査員の仕事は過酷」だということだ。
「山奥の隠れた名店から、昔からある町の老舗、人気のビストロ、高級ホテルのレストランなど、ありとあらゆるお店に出向き、美食を探し求める情熱と好奇心が必要になります。そして何より、『1日2食、週に10食』を調査のために食べ歩き、レポートを書くという気力と体力も求められる。
ときに憧れの的として羨まれる調査員の仕事ですが、グルメを心から愛してやまない探求家の精神と、星の評価をする確かな味覚、個人の趣好に寄らずに客観的な評価を下す能力が求められる職種なんです」
調査員のほとんどがホテル・レストラン業界の出身で、ホスピタリティに長けた人材を雇っているそうだが、採用基準や応募方法などは公開されていない。
また、何度も星を獲得しているレストランのシェフでさえ、「ミシェランガイドの調査員がいつ来たのか、全くわからなかった」というコメントを残しており、正体を明かさない術はまさに類を見ないほどだ。
調査員は必ずしも一人でお店に出向くとは限らず、友人と一緒に来店しているかもしれない。
映画に出てくる“CIA”や“FBI”を想像させるが、ミシェランガイドの掲載場所は、全ての調査員が厳密に合議制で決定するというルールがある。
調査対象のお店に、複数の調査員が日を変えて来訪し、総意を持って評価していく姿勢こそ、ミシェランガイドの信頼度の高さにつながっているのだろう。