話題の二次元キャラ求人「介護しか勝たん!」広告主に聞く、“切実な現実”とは
以前から問題視されていた介護業界の人手不足だが、依然として深刻な状況は変わりない。公益財団法人介護労働安定センターは2022年8月、介護分野の事業所で働く介護労働者を対象に実施した「介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書」を発表。仕事の悩みや不安などについて質問したところ、「人手が足りない」(52.3%)が最多だった。
とはいえ、少しでも興味を持ってもらおうと取り組む介護関連の法人や企業は少なくない。
青森県を中心に介護・福祉施設を展開する社会福祉法人吉幸会が青森県内を走るJR大湊線内に2021年11月と、2022年12月の2度にわたって掲載した求人ポスターは秀逸だった。東北地方を応援するために創作された二次元キャラクター“東北イタコ”を起用して、「ばあちゃんにキュン」「じいちゃんすこ」「介護しか勝たん」といった文言を前面に押し出していたのだ。
これらの施策はSNSでも大きな反響があり、介護業界に一定の注目を集めた。そこで、社会福祉法人吉幸会の法人本部本部長を務める五十嵐潤氏にポスターを作成した経緯や、介護業界の求人事情について話を聞いた。
東北の企業であれば無料のご当地キャラクター
求人ポスターに二次元のキャラクターを使用したきっかけはどういったものだったのだろうか。
「最初は、南東北の名物のずんだ餅をモチーフにしたキャラクター“東北ずん子”を使った法人のPR用のノボリ旗を作成しました。東北ずん子は東北の企業であれば無料で使えます。私たちの法人のイメージアップはもちろんですが、作者の『東北を応援したい』という思いに大きく賛同したという経緯がありました。
ご存じかと思いますが、イタコは青森県むつ市にある恐山神社の例大祭で行われるイタコの口寄せで、自らの身体に死者の霊を憑依させ、残された家族と会話を仲介する女性のことです。当法人が運営する介護事業所は、青森県の南部地方とむつ下北地方に分布しており、南部地方のPRには東北ずん子を、むつ下北地方ではずん子と同じように東北の企業であれば無料で使用できる“東北イタコ”を活用しようと考えました」
介護は就職の選択肢に入っていない?
広告のターゲットとしては、JR大湊線を通学で利用する中高生に絞ったのだという。
「その理由は青森県の人口流出率の高さです。青森では毎年約6000人が高校や大学を卒業後、就職により県外に流出します。もちろん、県内に働きたい職場や就労環境が少ないことが大きいです。そこで、“中学生や高校生が職業選択する場合の選択肢の狭さ”に着目しました。
最近の中高生は毎日学校と自宅の往復ばかり。地域社会との接点が減っており、職業の選択肢を得る主なルートが、学校の先生・両親や家族・TVやインターネットのみになっている、という仮説を立てました。つまり、全く知らない業界には就職しないということではないか?ということ。それなら介護に興味を持ってもらうことが、介護業界に進んでもらう第一歩になると考えたんです」