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たった300円で乗れる、新幹線が“通勤電車”に変身する不思議な場所とは

暮らし

新幹線が“通勤電車”に変身する不思議な場所

博多駅

 新幹線通勤はそれほど珍しくはないかもしれない。だが、8.5キロメートルの区間の在来線に、通勤電車として新幹線を走らせている地域があると知ったら、誰しも驚くのではないだろうか。しかもその路線、新幹線以外は走らない。なんとも不思議な路線である。

 1975年に山陽新幹線博多駅が開業したとき、新幹線の車両基地は駅の南側8.5キロメートルほどの場所に設けられた。山陽新幹線の始発・終着駅である博多駅へは、新幹線車両がここから出入りしていたわけだ。同じころ、この車両基地一帯が福岡市のベッドタウンとして都市化の波に洗われ、宅地化が始まった。

 市内への通勤・通学者はしだいに増えていったが、公共の交通機関はバスのみ。住民はバスを使うかマイカーしか足がないため、道路は渋滞する一方だった。そのため8.5キロメートルほどの市内への通勤・通学に1時間もかかる状態になった

 そこで住民たちが目をつけたのが、博多駅と車両基地とを行き来する新幹線の回送車両で、これを有料で走らせてほしいと要望する陳情活動が始まった。1988年のことである。JR西日本はこれを受け入れて、車両基地内に博多南駅を設けて営業申請を行なった。

博多にある摩訶不思議な場所

 だが、新幹線には「主たる区間を時速200キロメートル以上で走行する」などの条件がある。このため、ひと駅だけの新線・博多南線は「普通鉄道」として事業申請し、博多駅~博多南駅はあくまで在来線ということになった

 しかしわずか8.5キロメートル1駅、乗車時間10分足らずで走るのは新幹線車両であるため、特急列車扱いとされ、普通乗車券190円(現在は200円)のほかに特急料金100円とする運賃設定で、1990年に開業したのである。開業当初は1日に14~18本程度の運行だったが、2022年時点では、博多駅から博多南駅へは1日28便、博多南駅から博多駅へも1日28便と便数も増加している

 定期券利用の通勤・通学客ばかりでなく、一般乗客の利用も増えている。また、山陽新幹線との接続を考慮したダイヤが組まれたりと、回送列車の有効利用は、地域に欠かせないインフラとして定着している。

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