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東大卒ITベンチャー取締役が、ベルリン銀熊賞『偶然と想像』に携わった背景

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責任感で本当に大変でした

偶然と想像

――クラウドファンディングもやっていますね。

高田:製作費が尽きてしまったので、クラウドファンディングをやりました。「資金が足りなくなったのでクラファンで補った」と振り返るとさらっとした感じですが、当時は賛同して出資いただいた方々の思いに応えなければという責任感で本当に大変でした……。クラウドファンディングでは最終的に465万2000円 をご支援いただきました。

――『ハッピーアワー』は5時間17分の長編ですが、ロカルノ映画祭で主演女優賞、ナント三大陸映画祭で「銀の気球賞」「観客賞」やその他の国内外の映画祭でも高く評価され、濱口監督の名前を広く世の中に知らせるきっかけになりました。

高田:出来上がった『ハッピーアワー』を見て、「すぐにヒットする映画か否かはわからないが、少なくとも10年単位で見続けられる映画なのでは」と思いました。そして、蓋を開けてみると、日本ではミニシアターを中心に広がり、フランスでは10万人以上の動員を記録し、自主映画界では異例の大ヒットとなりました。

 5時間以上もする映画を掛けるという決断を劇場がして下さったことが大きかったと思っています。

「自分はプロデューサーなんだ」と認識

――濱口監督は他のインタビューで、高田さんから「『もっと長さを短くしてほしい』と言われると思ったが何も言われなかった」と振り返っています。

高田:自分がいたから制約のない映画作りができた、ということではありませんでした。そもそも途中まで自分はプロデューサーだという自覚はないぐらいでした。ちなみに、『ハッピーアワー』にはそれぞれ濱口監督をサポートしてきた岡本英之さんや野原位さんもプロデューサーとしてクレジットされています。自分としては、彼らとともにトータルでサポートできれば、という気持ちでした。

 2014年のワークショップが終わって撮影を開始するタイミングで、日本の若手監督とプロデューサーをカンヌ映画祭に派遣して、作品と企画のプレゼンテーションなどを通じて映画の勉強をさせようという「C2C‐Challenge to Cannes 2014」 というプログラムがあり、濱口監督も選ばれました。

 その時に「高田さんは英語ができるので一プロデューサーとして一緒に来て欲しい」と言われて行ったんです。高校生の時に1年間アメリカに留学していたので英語は話せたので、半ば通訳のような気持ちでいましたが、現地に行って「自分はプロデューサーなんだ」と認識しました。

 カンヌ映画祭に行ってみて、コンペティション部門以外にも山ほど映画を上映していることや映画を取引する市場であることがわかり、勉強になりました。

<取材・文・撮影/熊野雅恵>

ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも従事

【公開情報】
偶然と想像』は12月17日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー!
バーチャル・スクリーン「Reel」でも配信中
©2021 NEOPA / fictive
配給:Incline

【キャスト・スタッフ】
監督・脚本:濱口竜介
出演:古川琴音 中島歩 玄理 渋川清彦 森郁月 甲斐翔真 占部房子 河井青葉

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