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仕事はラクで、賃金はアップ…ウソだらけの「AI失業論」の真実

キャリア

――AIの普及とともに、働き方はどう変わっていくのでしょうか?

海老原:仕事で求められることの根本が変わるわけではありません。多くのビジネス誌で「もっとスキルをつけろ!」などと煽りますが、恐れる必要はありません。むしろ無駄なスキルアップはいらなくなります。AIの普及は「苦役や徒労からの解放」になるのです。

 例として、再び回転寿司の話をしてみましょう。一流寿司職人のノウハウを代替するためには、高度なセンサーやメカトロニクスが必要だと述べましたが、それが実現した場合はどうなると思いますか?

仕事はラクで、賃金はアップ! AI時代の働き方

「AI失業論」の真実

――まったく見当もつきませんね……。

海老原:AIが魚の状態を判断して適切に切り分けられる。シャリも一律握りではなく、魚に合わせて調整できる。お客さんが食べたときの表情を読み取って、煮切り醤油や塩の量も加減してくれる。こうなると、寿司職人に習熟は必要なくなり、銀座の高級寿司店の味を、安価な回転寿司店でも出せるようになります。

 誰でもできる仕事が残ると言われると味気ないように感じるかもしれませんが、その意味するところは「誰でも回転寿司店で働けるようになる」」ということです。昨日まで寿司を知らなかった外国人留学生でも働ける。そして、美味しい寿司を安く提供できるようになれば、利益が増えて、賃金も上がっていきます。

――流通やサービス業以外でも同様のことが起こりますか?

海老原:では、営業職でノウハウの代替を想像してみましょう。AIが高度化すると、MVP営業がやっていたノウハウを代替できるようになります。寿司店と同じ構図です。営業先の顧客が何を望んでいるか? どんな接客をすべきか? それをAIが判断してくれるようになります。

 たとえば、ある顧客はプレゼンを重要視しておらず、早く話を終えて飲みに行きたいタイプかもしれません。ある顧客は2か月に1回顔を出すだけでいいけれども、完璧な提案書でないと納得しないタイプかもしれません。

――そうした顧客のタイプやニーズをAIが判断してくれるようのですか?

海老原:さらに言うなら、提案書もAIが作ってくれて、その読み方も「提案書のポイントはゆっくり読んで、別のポイントは強めに言う」などと、手取り足取りのレベルにまで落とし込んでくれる。

 前者にどんなプレゼンをしようかと頭をひねったり、後者に毎日顔を出したりするような徒労は必要なくなるわけです(特に若いセールスマンほどやりがちです)。これが苦役からの解放です。

――苦役からの解放。そういう考え方もできるわけですね。

海老原:さて、誰でも働けるようになるということは、労働市場の流動性が高まるということです。欧米などは似たようなモデルになっていて、ものすごく頭のいい人たちが高額の報酬で指示を出す側に回っています。そして部下たちは誰でも同じように仕事ができるようにマニュアルや制度がつくられている。だからこそ転職もしやすいのです。

 雇用を確保するために、賃金アップも進むでしょう。また公平性にもつながります。日本は難しい営業職でも歩合部分は少なく、売上を上げた人も、ダメな人とあまり給与差がありません。欧米では、コミッション比率の高い営業職ととルートセールスに二分されています。

 年配の人は「失敗を重ねて覚えるものだ」と言うかもしれませんが、無駄な苦役を省いて、成果を出せて、高い賃金をもらえて、早く帰れるほうがいいと思いませんか?

AI時代に求められる能力は「無茶ぶり対応力」

「AI失業論」の真実

――これからキャリアを重ねていく20代にとって、必要になる能力はなんでしょうか?

海老原:世の中で食っていく力というのはいくつかあると思いますが、私は大きなものが4つあると思っています。

1. スペシャリティ
2. リーダーシップ&マネジメント
3. 売り込み力
4. 無茶ぶり対応力

 スペシャリティは、AI時代にはノウハウを取って代わられれてしまうため、残念ながら不利になっていきます。リーダーシップやマネジメント力は誰にでもというより、出世していく一部の人に重要となる力です。それも、先天的、あるいは人生の早い部分での素養でも大きな差がつきます。部活動やクラスでリーダーをやって鍛えられるイメージですね。

 売り込み力も同様で、ロジックだけでなく図々しさや愛嬌といった人柄も重要で、そこはなかなか鍛えがたい。そこで無茶ぶり対応力なんです。

――無茶ぶり対応力とは?

海老原:ルーティンワークや法則性のある仕事はAIの得意とするところ。だからこそ未知の行動に立ち向かう力こそ武器になるのです。上司の命令に「そんなムチャな!」と感じるときは、たいてい自分の領域から外れた範囲をふられたとき。必死でこなせば、無茶ぶりに対する成功体験が身についてくる。汎用性が高くどこでも活きる力です。

――その無茶ぶり対応力が求められる業界はどんなものがありますか?

海老原:エリート公務員は実はこういう力が試されることが多いんですよ。環境整備の次は、幼児教育の部署に回されるなど、別分野をグルグルと担当していきます。私も某所で経験がありますが、県立大学の中に社会人向け大学院を作ってくれと、突拍子もないことを言われる。

 それをなんとかやりこなす。そこで単に法律に詳しくなっただけだと後々使い物にならないけれども、理想を実現するために動けるようになれば、それは大きな力になります。実は偉くなる人というのは、こういった対応力が広いんです。キャリア理論を見ても、組織心理学を見ても、偉くなる人の基本的な能力だとされています。

 先がわからない時代と言われていますが、無茶ぶりに耐えられるなら、自分の生きる道を探していけます。上司でも先輩でも彼女でも、日常の無茶ぶりをチャンスととらえて、耐え忍んで対応していってみてほしいです。

<取材・文・撮影/江沢洋>

【海老原嗣生(えびはら・つぐお)】
雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員。リクルートキャリア社特別研究員。大手メーカー、リクルート社を経て、現職へ。雇用問題やキャリア形成に関する著作・記事に多数執筆する。漫画『エンゼルバンク――ドラゴン桜外伝』の主人公のモデルでもある。

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「AIで仕事がなくなる」論のウソ

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